(4)

 速い! 

 身のこなしが軽い!


 さっき『スキャン』の魔法で調べた通り、ヘクターはスピードとパワー、両方を兼ね備えた高レベルの戦士なのだ。


 この攻撃、僕の能力では到底避け切れない。

 つまり正面で受けるしかない。

 そう判断した僕は、続けて魔法を唱えた。 


『ガード!!』 


 同時に、ヘクターが目の前に飛び込んできた。

 偃月刀えんげつとうを大きく振り上げる。

 袈裟けさ掛けに僕を叩き切ろうというのだ。


 だがすでにその時、『ガード』の効果は発動していた。


「カキンッ」


 鋭い金属音がして、偃月刀えんげつとうは強く跳ね返された。

 ヘクターは続けて二撃、三撃と打ち下ろすが、『ガード』の壁はその攻撃をまったく寄せ付けない。


 ヘクターはいったん攻めるのを諦め、数メートル後ろに跳んだ。

 そして素早く体勢を立て直す。


「私の刀を防ぐとはなかなかの魔法ですね――ならば、これはどうです?」


 ヘクターの体が一瞬、青く光った。


 あっ、まずい!

 そう思った瞬間――ヘクターがすべての体重を右肩一点に集め、前にかがんだ。


 それはただのショルダータックルではなかった。

 ヘクターは超高速移動、いや、ほとんどテレポーテーションのような速さでこっちに突っ込んできたのだ。


 ガンッ、という強い衝撃を感じ、あおむけの状態で体が宙に泳いだ。

 突然青い空が視界に入る。


 ああ、これが『クイック』――スピードを倍増させるスキルか。


 そのまま、僕は背中から思い切り地面に叩き付けられ、激しい痛みが全身を駆け巡る。

 『ガード』の魔法が破られたわけではない。

 凄まじいタックルに押され、防御壁ごと体を吹っ飛ばされたのだ。


 甘かった。

 やはりここは、すべてがプログラムされたゲームの世界とは違う。

 予想外のことがいくらでも起こり得るのだ。


「ユウト!」

 アリスが剣を構えたまま、僕の方を見て叫ぶ。


「……大丈夫です。アリス様」


 痛みは残っていたが、手足は普通に動く。

 『ガード』が効いていたおかげで、ヘクターのタックルの威力を大幅に削いでくれたらしい。

 もし生身のままだったら、全身がバラバラになっていたかもしれない。


 だがアリスは激怒した。


「貴様!!」


 僕をかばいながら、ヘクターに向かって叫ぶ。

 それから神剣ルーディスを構え、ヘクターに一気に切りかかろうとした。

  

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