(26)

「でもさ、あなたって魔法は使えないんだよね?」

 と、セフィーゼがアリスに訊く。


「残念ながらな」


「それじゃあ戦っても一瞬で勝負が付いちゃうね。そんな戦い方をしたら後でやっぱり卑怯者呼ばわりされそう――わかった、私も剣で戦う。魔法は使わない」


「セフィーゼ、あなたはさっきから何を言っているんです!!」

 ヘクターがついに耐えきれなくなって、大声で叫んだ。

「私たちは勝利をほぼ手中に収めているのですよ。それを今さら一騎打ちだなんてあり得ません。ましてや剣で戦うなんて! 気でも狂ったのですか!」


「ヘクター、聞いてなかったの? これはパパの仇を打つための正式な決闘デュエルなの! ヘクターは王女を生かしておきたいのだろうけど、そうはいかないんだから。王女は私が正々堂々戦って殺す。もう決めたもの」


「なりません! 団長に万が一のことがあっては――」


「いいから口を挟まないで!」


「絶対にダメです!」


「なによ! この分からず屋!」

 セフィーゼはまるで親に反抗する駄々っ子に、ムスッとふくれてしまった。


「ヘクター!」

 と、そこでアリスが二人の会話をさえぎった。


「なんですか? アリス王女」


「何度でも言う。今はセフィーゼが族長だということを忘れるな! お前はその族長の意思に背くというのか?」


「……しかし」


「まだためらうのか、ヘクター? ――ならば条件をもう二つ付け加えてやる。私はレーモンのようにケチくさいことは言わん。もしセフィーゼが私に勝ったら、イーザの完全な独立を認めよう。その上で私が王国領土に所有する荘園を全部くれてやる。年間20億エキュの収入のある土地だ。どうだ? これで不満はないだろう」


「それはまたずいぶん気前のいい。ですが、にわかには信じられません」


「何だと!? 疑うのか? よりによってこの私を!」

 アリスはここぞとばかりに声を張り上げる。

「ヘクター、見くびるな! ロードラントの次期王位継承者の名に懸け、私は嘘偽りは申さん!」 


 僕には分かる。

 もし決闘デュエルに負けたなら、アリスは本気でそうするつもりなのだ。


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