(18)

「アリス王女、セフィーゼが話し合いに応じます」

 と、言いつつもヘクターは警戒を緩めない。

「ですが、まずそこにいるレーモン公に後方へ下がるように命じて下さい。すべてはそれからです」


「いいだろう。――聞いたか? レーモン。私は一度しか言わない」

 レーモンに対するアリスのその声は、氷のように冷たい。

「後ろに下がれ。そしてこれから何が起ころうと一切手を出すな! これは命令だ」


「……し、しかし」


「よく考えろ、レーモン! 今お前がここに留まれば、あの小娘は即、戦いを――あの風魔法を撃ってくる。そうすれば私もお前も無事ではすまんぞ」


「……むむむ……承知いたしました」


 アリスの言う通りだろうと思ったのだろう。

 レーモンは剣を鞘に納め、敵に背を向け僕たちの方へ歩き出した。

 が、その心中はまさに断腸の思いだったに違いない。


「結構です」

 レーモンが下がったのを見届け、ヘクターが言った。

「ではアリス王女、次にその腰の剣を捨ててください」


 このヘクターという男。

 圧倒的優位な立場にいるのにずいぶん慎重だ。

 おそらくそれは、レーモンがアリスの身を心配するのと同じような関係。

 セフィーゼに危害が加えられることを、過剰なまでに恐れているのだ。

 言いかえれば、そこがヘクターの最大の弱点でもあるわけだ。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 が、アリスは、今度はヘクターの言葉にすぐには従わなかった。


「これか」

 と、アリスは腰に差した剣の柄に触れる。

「これは神剣ルーディスと呼ばれる、我がロードラント王国に代々伝わる秘宝の剣、いわば王家の象徴だ。――この剣を持つ者はすなわち神から永遠の繁栄を約束され、また行く手を阻む敵があれば、たちどころにその者を退しりぞき滅するという」


 アリスはするりとその剣を抜いた。

 白銀の刀身がまばゆい光を放つ。 


「今回の出陣に際し私が父王から賜ったものだ」


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