(7)

 レーモンはセフィーゼとヘクターに対し、ものものしい口調で言った。


「私はレーモン・ド・モントヴィル公爵――ロードラント軍の指揮を執るものである。我々は今、貴公らと戦うつもりはない。交渉の申し入れするため、参ったのだ」


「へーえ、交渉ねえ……」

 セフィーゼがニヤニヤ笑う。

「ねえヘクター。このお爺さん、自分の立場がまったくわかってないみたい」


「いかにも」

 ヘクターがうなずく。


「ねえお爺さん。あんたには私たちの後ろにいる騎兵が見えないのかしら? 二千騎以上いるんだよ。それもすっごい強いんだから」

 セフィーゼが自分の背後を指さした。

「――ああ、失礼。もしかして歳のせいで眼が見えにくいのかな? だとしたら謝るね」


「むむ! 見くびるな、この若造めが! 私はまだそんなに耄碌もうろくするような歳ではないわ!」


 レーモンがついつい大声を出してしまう。

 ここからでは見えないけど、きっと額には青筋が立っているに違いない。


 が、セフィーゼは

「うわ、恐―い」

 と、言ってクスクスと笑うだけだ。


「セフィーゼ、調子に乗りすぎですよ。それに年長者にはそれなり礼を尽くすべきです。一応話は伺いましょう」

 と、ヘクターがセフィーゼに注意してから、レーモンに言った。

「――失礼しましたレーモン公爵。しかしこの期に及んで、交渉とはいったいどういうことですか?」


「……うむ」

 レーモンはゴホンと咳払いし、言った。

「我々ロードラント王国軍は、イーザに対し即時停戦を申し込む」


「停戦? 停戦ですって!」


 セフィーゼが大げさに驚く。


「それって降伏の間違いじゃない? あ、このお爺さん、もしかして目だけじゃなくて頭もボケているのかしら。 いい? こ・う・ふ・く、よ。降伏!」


 言いたい放題のセフィーゼ。

 何というか、顔や姿は本当にかわいいのに、現実世界だったら完全な「クソガキ」だろう。  


 が、レーモンは懸命に怒りをこらえている。

 普段なら問答無用で、相手を無礼打ちしていたかもしれないのに……。


「いい加減にしなさい、セフィーゼ!」

 ヘクターはそう軽く叱って、それからレーモンの方に向き直り、凄味をきかせて言った。

「――それでレーモン公爵、停戦の条件は? この状況からすれば、当然無条件、というわけではないですよね?」


「そうだな……」

 レーモンは髭をひねり、なにやら考え込んでいる。

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