(15)

 と、そこで――


「ユウトさん!」


 僕を呼ぶ声がした。

 リナだ。 

 そうだ、今はセリカなんかと油を売っている場合ではなかった。


「ユウトさん、どうしたんですか? 一人でぶつぶつ言って?」

 こちらに歩いてきたリナが、怪訝けげんそうな顔をして訊く。


「あ、いや。何でもありません――ただの独り言です」


「そうですか。――それよりアリス様からご命令があります。どうか魔法で負傷者の治療にあたってほしい、と」


「分かりました、すぐに行きます」


「あー、その子がそっちの世界のリナさんなんだ」

 セリカがヘッドセットの向うで言った。

「私と話しているのがバレたらまずいね。じゃあ頑張って。現実世界からあなたの戦いぶりをじっくり観戦させてもらうから」


「え!? ちょっと――!」


 そこで通信はプツリと切れた。


 くそっ。セリカの奴、観戦って――

 サッカーや野球の試合でもあるまいし、そりゃないだろう。

 こっちは命がけだというのに。 


「本当にどうしたんですか、ユウトさん?」

 リナが怒る僕を見て心配そうに言った。


「で、ですから独り言です。どうぞ気にしないでください。それよりケガした人の治療をしますね」


 僕は何とか気持ちを落ち着かせ、リナの案内で負傷者の元へ向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 戦況は一進一退だった。

 いや、むしろロードラント軍の兵士たちは圧倒的な数のコボルト兵相手に、かなり善戦しているようにも見える。

 なぜならコボルト兵の武器は粗末なうえ、戦略というものがまるでなく闇雲やみくもに突撃を繰り返すだけで、その点有利に戦いを進められているからだ。


 それでも負傷者は、僕の元へひっきりなしに運ばれてくる。

 加えてさっきの弓攻撃で出たケガ人もいる。


 僕は一人でも多くの人を救おうと、必死に『リカバー』の魔法をかけ続けた。

 だが、いくら白魔法の力に恵まれているとはいえ、それはかなりしんどい作業でもあった。


 回復者ヒーラーとしてそれほどレベルが高くないシスターマリアが、重体のティルファに魔法をかけ続け、最後は魔力が尽き倒れてしまったのも無理はないだろう。





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