(16)

「おーい、ユウト、大丈夫か?」


 それからしばらくして、エリックがまた僕の様子を見にやってきてくれた。

 その横には、なぜかトマスもいる。


「あれ? トマスさん」

 僕は少し驚いて尋ねた。

「シスターのマリアさんたちが乗った馬車の護衛をしてたんじゃ?」


「それなら心配ねえって。馬車はもう無事逃げ延びコノート城に向かった。で、こいつはそれを見届けてから取って返してきたんだ。俺らのことが心配だったんだとよ」


 と、エリックがトマスの肩に手を置いた。


「敵に囲まれる前にぎりぎり間に合ったが、まったく危ない橋を渡りやがって。ホント無茶な野郎だよ」


「へへ……」

 と、トマスは頭をかいている。


 うーん。

 少しでもみんなの力になろうと、わざわざ危険な戦場に戻ってきてくれるとは。

 この人、本当にいい人なんだ。


「さあてユウト、俺もちょっくらコボルトども相手に暴れて来るぜ。トマス、行くぞ」


 エリックの目に急に鋭さが戻った。

 剣を手に取り、全身に闘志をみなぎらせている。


「ワカッタ」


 トマスの顔からも笑みが消える。

 どこに隠し持っていたのか、長さ5メートルはある強大な棍棒を片手で軽々持ち上げ、肩に担ぎ上げた。   



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エリックとトマスの変容ぶりを見て、僕はドキリとしてった。

 やっぱり二人は戦争慣れしている。

 素は戦いをいとわない戦士なのだ。


 では僕は?

 彼らと一緒に戦わなくてよいのだろうか?


 いくら回復役ヒーラーとしての役割を果たしているとはいえ、自分だけ安全地帯にいるという事実は普通にうしろめたい。

 が、現実世界では虫一匹殺すのにも躊躇ちゅうちょする僕が武器を持ったところで、敵を倒せるはずもなかった。


 それでも僕はエリックに言った。


「本当は僕も行って戦うべきだよね」


「なーに言ってやがる、おめーはいいんだよ」

 エリックが首を振る。

「ケガ人を治すという大事な仕事があるんだからな、それでいい」


「でも……」


「いいからそこで見てろ。さあトマス、いっちょ暴れてこようぜ」


 僕が何か言い返す前に、エリックとトマスはコボルト兵目がけ走り出した。




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