(5)

 さっきはいきなりだったから、それができなかったのだ。

 でも今なら――


 僕は走りながら、自分に魔法をかけてみることにした。


『ガード!』


 一瞬、パッと自分の体のまわりが青く光った。

 初めて唱える魔法だが、上手くいったようだ。

 その効果が発揮されれば、弓矢なんてまったく怖くないはず。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『ガード』


 剣や矢など、敵の物理攻撃を防ぐ基本的な防御魔法。

 術者のレベルに比例して威力が上がる。


 気をつけなければいけないのは、『ガード』の魔法の壁にも耐久度があるという点だ。

 ダメージが蓄積ちくせきすれば、最後は粉みじん砕けてしまう。

 効果範囲も狭く、自分と、ごく身近な仲間しか守れない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そこへまた、数本の矢が飛んでくるのが見えた。

 が、僕はあえてそれを避けないことにした。

 わざとその場に立ち止まり、矢が当たるままにする。


 次の瞬間「ピシッピシッ」と音がして、矢は魔法の壁に跳ね返され地面に落ちた。


 うまくいった!

『ガード』の効果は確かだ。


 自信を深めた僕は、再び走り出した。

 やがて前方に、アリスと白馬が見えてきた。

 混乱し逃げまどう兵士たちを、必死に立て直そうとしているらしい。


「みんな落ち着け! 下手に逃げるな! 固まって盾を持ち矢を防ぐのだ」


 アリスは一生懸命に叫ぶ。

 が、全く意味のないことだった。


 兵士たちは誰もアリスの指示など聞いていないのだ。

 右往左往して味方同士でぶつかりあったり、矢から逃れようと地面を這いつくっばったり――

 もはや軍隊の態を成していない、ひどい有様だ。


 これではとても敵と戦うどころではない。

 下手をすれば矢の攻撃だけで全滅だ。


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