(4)

「ユウト、命拾いしたな!」

 アリスが僕の側にきて、背中をパンッと叩いた。

「お前といいその者たちといい、普通の兵士たちの中にまさかこんなに稀有けうな人材がいるとは思いもよらなかったぞ」


「これはアリス王女様!」

 エリックがうやうやしくお辞儀をする。 

「私はエリック、こいつはトマスと申します。以後、どうぞお見知りおきを」


「よし、名は覚えた。――ちょうどよい。エリックにトマス、そなたたちの腕を見込んで頼みがある」


「はい、何なりと申し付け下さい。不肖ながらこのエリック、命を懸けて任務を果たさせていたただきます」


「それは頼もしい。――これは大切な任務だ」

 と、アリスは馬にヒラリとまたがって言った。

「二人には後方の輜重しちょう部隊を先に出発させ、コノート城へ続く街道まで先導かつ護衛してほしいのだ。馬車には私の大事な友人が乗っているから慎重にな」


「かしこまりました。お安い御用で」

 エリックは再び深くお辞儀をし、そらから顔を上げ、アリスに尋ねた。

「ところで、僭越せんえつながらアリス様はこれからどうなされるおつもりで――?」


「答えるまでもない」

 アリスは平然と言った。

「むろん、私は皆を助けに行く」


「アリス様! 私もご一緒します」

 それを聞いたリナが叫ぶ。


「いや、必要ない。――それよりリナ、お前はこの者たちと共に行って、ティルファとシスターマリアに付き添ってほしい。よいか? これは王女としてのの命令ではない。お前を友と見込んでの頼みだ。分かってくれるな?」


 アリスはそう言って、リナの返事も聞かず、馬の拍車を蹴った。

 白馬はすぐに、全速力で矢の雨の中を走り出した。


「お、お待ちください!! まだ矢が危険ですぞ!!」

 と、レーモンが慌ててその後を馬で追う。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 アリス王女――


 彼女は本気で、矢から逃げまどう兵士たちを助けるつもりらしい。

 部下想いで好感は持てるけれど、かなり無謀な人でもある。


 でも、ここはまさに僕の出番。

 全員を救うことは無理でも、アリス王女一人ぐらいなら魔法で守ることはできる。


「エリックさん、トマスさん、リナ様のことはお願いします!」


 僕はそう叫び、アリスを追って走り出した。

 彼らに任せればリナもまず安心だろう。 


「おいおい! ユウト、おまえは大丈夫なのか? 矢はまだたくさん飛んでくるぞ――」


 エリックの叫ぶ声が背後から聞こえてきたので、僕は振り向いて言い返した。


「心配しないでください! 今度は魔法で防ぎますから」


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