(6)

 ――え!?

 なに!? ちょ、ちょっと待って!!


 慌てる僕を、アリスはグイと引き寄せる。


「お前も見ただろう、ひん死のティルファを治してしまったユウトの魔法を。ユウトがいれば、我々はこの先十分戦えるであろう」


「お、お待ちください!!」

 僕は焦って叫んだ。

「私が使えるのは白魔法だけです。相手を攻撃するような黒魔法は使えません」


「だからどうした? 一人の強力な回復役ヒーラーは数千人の兵力に匹敵する。お前がいれば兵士たちも安心だ」


 いや、いくらなんでもアリスは僕を買いかぶりすぎている。

 それにあまりに責任がすぎる。


「バカバカしい」

 思った通り、レーモンはまったく取り合おうとしない。

「その男が多少魔法を使えたところでなんになりましょう。まったく無意味です」

 

「この軍を指揮するのは私だ!」

 アリスが叫ぶ。

「お前にとやかく言われる筋合いはない」


「そこまで言われるのでしたら、止むを得ませんな」

 レーモンが白い眉を吊り上げて言った。

「私の命により軍を撤退させます。むろんアリス様も、力づくでも一緒に帰っていただきますぞ」


「ほう、お前にそれができるか、老人。私は父王の名代みょうだいなのだぞ!」


 またまたアリスとレーモンの間に火花が散ってしまう。


 僕は、この期に及んでまたこれか――と嫌気がさしたが、冷静に考えれば、ここはやはりレーモンに分があるような気がした。


 もしアリスの命令に従って、練度も士気も低い兵士が2000人がこのまま進軍すればどうなるか?

 そんなこと、戦いに関してド素人の僕でも分かる。


 敗走する兵士を救うどころか、たぶんレーモンの予想通り全員玉砕。

 助かる命も助からなくなるだろう。

 それでは元も子もないのだ。


 では、問題はどうやってアリスを説き伏せるか、だが……。

 口下手な僕では到底彼女の心を変えられそうにもない。


 他に誰か説得できそうな人は――リナぐらいか。

 ……いや、たとえ彼女でも、アリスの頑固で強固な意志を変えるのは無理かもしれない。


 しかし――


 その心配は杞憂きゆうに終わった。

 いや、事態はもっと悪い方向に進んでいたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  


 急に日差しがかげった。 


 ――あんなに晴れていたのに、どうしたんだろう?


 僕はふと空を見上げた。


                         

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