(6)

「なんだと!」

 アリスは激怒し叫んだ。今にもレーモンにつかみかかりそうな勢いだ。

「レーモン、貴様っ――ティルファを見捨てろと言うのか?」


「アリス様、どうぞ落ち着いて下さい。よろしいですか? 第二軍団の副将であるティルファがここまでの深手を負っているということは、先鋒の第一軍団、そして主力の第二軍団に何らかの異変があったと考えるべきです」


「異変?」


「敵によって、かなりの損害を受けた――あるいは全滅したと見た方が良いしょう」


「は? ありえん」

 アリスは薄く笑った。

「敵の数はせいぜい二千。それに対しわが軍は二万だぞ! どこをどうやったら負けるというのだ。だいたい昨日、第一、二軍は連戦連勝、イーザの拠点も陥落間近だとの報告があったではないか!」


「そうですわ、叔父様」

 と、リナが言う。


「ロードラントが誇る無敗の軍団が、地方の蛮族ごときにつけ入られるわけないではありませんか。ティルファさんはおそらく何らかの理由で軍からはぐれ、そこを襲われたのでしょう」


「リナ、いいからお前は黙っていなさい!」


 レーモンはリナを叱責しっせきした。

 今度こそ本当に怒ったみたいだ。


「戦場ではなにが起こるかわからないと、常日頃つねひごろ言い聞かせてきたではないか。特に我々軍の上に立つ者はあらゆる最悪の事態を想定して物事を考えねばならないのだ。それを怠って、もし万が一のことがあればどうする!」


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