17 神サマに会ったイーノ

 イーノがまた熱を出して苦しんでいる、とスーネエから聞いた。起こしちゃだめよ、一目見るだけ、と念をおされてイーノの部屋へ行った。イーノは顔をほてらせて、力なくベッドに横たわっていた。

 イーノの手をそっとにぎると、イーノは目を開いて、ぼくを見た。

 「夢を見ていた」

 ぼくはうなずいた。

 「神サマに会ったわ」

 「本当? どんなだった、その神サマ」

 「わからない。探査機に乗って真っ暗な宇宙を進みながら、神サマ出ておいで、と繰り返し呼んでいたの。そしたら地球からも、神サマ出ておいで、っていう大きな合唱が聞こえてきた。そのなかに青山くんの声もあったよ。うれしかった。そしたら、あたりが白く光りだして、とてもまぶしいの。あっ、神サマに包まれている、って感じた」

 「なんか言ってた? その神サマ」

 「私はここにいる、みたいな・・・。言葉じゃなくて、なんか内がわから聞こえるような感じ」

 「それだけ?」

 「うん。だけど、それだけですごく安心しちゃった」

 イーノは目をうるませ、苦しそうにとぎれとぎれ語った。

 「それ、きっと本物の神サマだよ。病気がなおるようにお願いした?」

 イーノは静かに首を振った。

 「だって、自分勝手は言えないよ」

 「バカだなあ、なんで言わなかったの。それは自分勝手とは違うんだ。いのちは神サマが作ったんだから、いのちにかかわることは、神サマに言ったっていいんだぞ」

 イーノはかなしそうな顔をして、目をつぶった。ぼくはイーノの耳に口を近づけて言った。

 「安心しな。ぼくが神サマにお願いしてあげるから。うん、と言わなかったら、ぶっとばしてやる」

 イーノは目をつぶったままほほえみ、言った。

 「青山くん、わたしのこと好き?」

 「決まっているじゃないか」

 「どこが好き?」

 「どこって、全部だよ」

 「でも青山くん、病気のわたししか知らないでしょ」

 「病気だろうがなんだろうが、イーノはイーノだろ」

 「うん、そうだよね。わたしもそう思った。だってこのわたし以外にわたしはいないんだも。この病気のわたしがわたしなんだ、って。そしたらね、もうなにも神サマにお願いすることがなくなちゃった」

 イーノは大きく息をつき、とてもやさしい目でぼくを見た。

 「いっぺんにいろんなことを思いだしちゃった。そしてね、わたし、今まですっごく幸せだった、ってわかった。本当だよ。地球って、とっても素敵な星だったよ」

 窓から差しこむ陽差しがイーノのベッドをやさしい光で包んでいたが、その時、ぼくにはイーノ自身が光を発しているように見えた。イーノの声がぼくの内部から聞こえるようにも、またはるか遠くから聞こえてくるようにも感じられた。まるで宇宙人みたいだった。

 「おまえ、ヘンなこと言うなよな。イーノの知っていることは地球の中のこれっぽちもないんだぜ。これからもっといっぱい、いろんなことを見たりやったりするんだぞ」

 「うん、わかってる」

 イーノは、自分が幸せだと思っていることをどうしてもぼくに伝えたかったのだ、と言った。ぼくはただ「がんばって早く元気になれ」と同じ言葉をくり返すだけだった。

 イーノが疲れて眠ったように見えたので、ぼくは部屋を出ようと立ち上がった。そのとき、イーノは目をつぶったまま言った。

 「目をつぶっても、青山くんが見える。わたしの中に青山くんがいるから、ちっともこわくないよ。いつもいっしょだも」

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