第13話 粗大ゴミ……改め、便利な材料

 ロバートさんの真剣な分析により、モルタル認定されました。トンカチで叩いて、削って調べたから間違いがないだろう。


 ちなみに、セト君はまだ私に脅えている……私は魔女じゃないよ。黒魔術なんて使わない。


「それにしても……驚きました。ソフィーさんは錬金術師だったのですね」


「あたしも驚いたね」


 ……何故か錬金術師に認定されてしまったのだけど、私もどうしてモルタルが出来たのか分かっていない。私は何をやっているのだろうか。落ち込んでしまう。


「本当は石鹸を作ろうと思ったのですが……」



 渾身の大失敗である。情けない気持ちでいっぱいだ。それに、桶もダメにしてしまった。

 でっかい石を作ってどうする……私……。



「石鹸をかい……石鹸も金持ちしか買えない代物だけどね……」


 コゼットさんが、そんなの無理だろう〜というような目で私を見ている……。


「凄腕の錬金術師は、尿から黄金を作り出すと聞いたことがありますが……迷信だと思っていました」とロバートさんがしみじみと、まるで伝説のドラゴンを見るような目で私を見ているが、さすがに尿から黄金は、迷信だろう。元素的に不可能だ。その伝説の錬金術師は、たぶん、尿からアンモニアでも作ったのではないだろうか。


 その伝説の錬金術師さんはちゃんと成功しているだけ素晴らしい。私なんて、石鹸とはほど遠いものが出来てしまった。


 料理を作ろうとして、焦がして消し炭作ってしまう方がまだましかも知れない。


 本当に落ち込んでしまう。聖女としても失格。錬金術師としても失格の部類だろう。自分のダメさが嫌になる……。


 地面に正座……いや、土下座して謝りたい……。


「それにしても……これ、どうしましょうか?」とロバートさんが言う。


 机の上に置かれたモルタルの固まりを全員でみつめる。


「邪魔ですよね……。今日、王都のどこかの空き地にでも捨ててきます……本当に済みませんでした」


 でっかい石の塊。使い道がまったくなさそう……漬物石にしては大きすぎる。本当のゴミを作ってしまった。捨てるのに困る、粗大ゴミだ。


「もう、二度とこんな真似はしないので、許してください」


 私は頭を下げて誠心誠意、謝る。


「え? もう作らないのですか?」


 ロバートさんが意外な顔をして言った。


「でも、こんな岩なんて作っても邪魔なだけですよね……」


 わざわざ王都の川辺にゴミとして捨ててあるものを拾って来て、薪という燃料を無駄にした挙げ句、出来上がったのが、石という粗大ゴミ……。


「それは使い方次第です。僕の調べたかぎり、品質は王都で使われているものとほとんど同じです。ソフィーさん、可能ならまたこれ、作ってください」


 ロバートさんが聞いてきた。


「え……?」


 昨日と同じようにしたら、同じ結果となるはずだけど……。


「ちょうどかまどの修理をしたいと思っていたのですが」


「え? 竃ですか?」

 どうして竃が出てくるのだろうか? 

「長年使い込んだからねぇ」とコゼットさんも言う。

 どういうことだろうと私は首を傾げていると、ロバートさんが説明してくれた。


「モルタル、というのは王都の道路の舗装に大量に使われていますが、実は、それ以外にも沢山用途があるんです。例えばですが……」

 

 ロバートさんは椅子から立ち上がり、竃のところへと行く。


「この竃は、適当な大きさの石を積み上げていき、そして最後に泥を石と石の間に練り込んで乾燥させて焼くという方法で作られています。ですが、使っているとやはりボロボロになってきます」


 たしかに、コゼットさんの家の竃は、石がしっかり組み上げられているが、無骨というか、バランスを崩したら倒壊してしまいそうではある。


「石と石の間を、このモルタルで埋めると、もっと丈夫な竃ができるんです。もっとも、モルタルの材料がとても高くて、普通は泥で固めるんですけどね」


「そんな使い道があるんですか!」


「これはほんの一例ですよ。屋根の隙間に塗り込めば、雨漏りの穴も防ぐことができます」


「すごいです! ロバートさん!」


「あと、実はソフィーさんがやったように、木材で型を作り、その中にモルタルを流し込むと、思い通りの形の石ができるので使い勝手も良いんです。レンガのような型を作れば、わざわざ乾燥させて焼かなくても、レンガと同じようなものが作れます」


「そうなんですか……」


 桶に入れっぱなしだっただけで、私は型にはめようとしたわけではないのだけど……。


 建築のことなんて私には分からない。ただ、建築資材として便利なようだ。


「だから、ソフィーさん」


 ふっとロバートさんに呼びかけられる。


「だから、明るい顔をしてください。そんなに落ち込まなくてもいいですよ。ずっとさっきから泣き出しそうな顔じゃないですか。笑ってください」


 さっきから使い方をいろいろ説明してくれていたのは、私を励ましてくれるためだったのか……。私はフォローされているいのか。


「あ、ありがとうございます」とお礼を言う。


「あっ! ロバート兄ちゃんがソフィー泣かした!」


 別の部屋で恐る恐る様子を見ていたセト君が言った。


「ロバート兄ちゃん、気を付けろよ! ソフィーに石にされるぞ〜」


「そんなことしないよ……」


 ロバートさんの優しさに、思わず少しだけ涙が落ちてしまった。


「分かりました! 材料は、貝殻で沢山拾ってこれるので、もっと沢山作りますね!」


 なんだか元気が出てきた。


「なんだい、あのゴミの山から作ったのかい」


 コゼットさんが驚いている。ゴミと言っても、貝殻だけど……まぁ、使い道がないという点ではゴミなのだろう。


 でも、有効に利用できるロバートさんがいれば、きっとそれはゴミではないのだろう。


「そういうことなら、俺が貝殻、運んで来てやるよ!」


 奥の部屋から出て来たのはドットさんだ。


「ドットさん、体調はもう良いんですか?」


 下痢は先日止まっていたけれど、まだまだ休息と体力の回復が必要だと思う。


「なぁに、ずっと寝ていたら体が鈍って仕方がねぇ。それに、貝殻もたくさん必要なんだろう? 桶で運んでたら日が暮れるだろう? 俺が荷台で運んでやるよ」


 あっ。たしかに、桶を両手に持って運ぶよりも大量に運べる。


 ドットさんは、荷物引きの仕事をしている。専門家に任せたほうが良いかもしれない。


「無理をしない程度にお願いします!」


「おう! 俺の看病をしてくれたお礼だ! たくさん運んで来てやっから楽しみにしといてくれ!」


「竃に、天井、壁。モルタルはいくらあっても困りません。使い道はたくさんあります。お願いしますね」とロバートさんが言った。


「お、俺もなんか手伝うぞー」


 セト君が言った。じゃあ……セト君にも燃料探し、薪拾いを助けてもらおう。

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