第4話スクーター購入とフィリピンの免許証

 パラワン島での一般的な交通手段としては、トライシクル(バイクにサイドカーを付けたもので乗客は5人ほど)、モルティキャブ(軽トラの荷台に向い合せに長椅子で乗客は14人ほど)等が有り、一定区間を約8~10ペソ(約20円)で乗ることが出来る。

 流しの場合は何処からでも乗れるが、乗り場からは乗客がある程度集まらないと走り出さない。安いのはいいが、急いでいる場合には全く不都合な移動手段となってしまう。


 約3年前、パラワンにアパートを借りて、すぐにスクーターをレンタルした。1日500ペソだったが1ヶ月借りると言うことで7000ペソで交渉成立。ヤマハのMIOという110ccのスクーターで新車価格は66000ベソ。もしパラワン暮らしが性に合わないとなった場合を考えて、なるべく持ち物を増やしたくなかったのだ。借りたアパートも家具付きだ。旅行で1週間過ごすのと、長期間住むのとでは街が違って見えてくるのをフィリピン各地に滞在した経験から分かっていた。


 MIO は海へ山へ買い物へと、毎日大活躍してくれた。2人乗りでもリッター当たり約40キロ走る、経済的で素晴らしいスクーターだった。

 レンタル期間の1ヶ月があっという間に過ぎ、同じクラスのスクーターを買うことにした。

 ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの日本製4メーカーに限定して考えた。それ以外のアジアのメーカー製もいろいろと有り、日本製よりも2割安程度で買えたが信頼性の面で除外した。レンタル屋では日本製しか扱っていないのが信頼性の差の証拠だ。

 日本製4メーカーではスズキとカワサキが除外された。メーカーの専売店が無く、整備工場の無い売りっぱなしの店でしか、この2社のバイクを扱っていなかった。

 ホンダとヤマハは専売店が有り整備工賃を張り出した工場を持っていた。

 2社とも同じ様なスクーターを出していたが、最終的にヤマハに決めた。Soul i 125という、125cc のスクーターだ。決め手はLEDの明るいヘッドライトと大きなシート下の収納スペース。100/70-14という、グリップの良さそうなリアタイヤだ。さらに言うと、ヤマハディーラーの受付の女の子がホンダよりも可愛かった。

 当時の値段で確か77000ペソだったが、キャッシュで買うからと言うことで76000ペソで、サービスのヘルメット付きで購入。仮ナンバーを付けてもらいその場で乗って帰った。


 110cc のレンタルスクーターと比べると、2人乗りで登り坂での余裕が出た。平坦な道ではそれほどの差は感じられないが、明るいライトのお陰で夜道も安心して走れるようになった。


 今現在でも私のスクーターは仮ナンバーのまま。LTO(ランド トランスポーテーション オフィス)という日本での陸運局でナンバーが発行されるが、毎年の登録更新の時に聞いても「まだ出来てない」で終わり。知り合いのバイクは購入から4年後に正規のナンバーが付いたという。流石フィリピン!


 日本からフィリピンに来て、車やバイクに乗る場合は、短期であれば国際免許証が一番簡単。

 フィリピンの免許証が必要な場合はフィリピンの日本大使館で日本の免許証を英訳してもらい、それをフィリピン各地にあるLTO に持っていくと、フィリピンの免許証を発行してもらえる。免許証には名前や国籍、生年月日や性別は勿論、体重と身長、目の色や血液型まで記される。

 免許証の一番下の方に運転出来る車両の区別が有り、番号が1や2と書いてある。1がバイクで2が車。日本でバイクと車の両方の免許を持っていてもLTOのミスで2しか番号がない場合が有るので要確認!

 私の場合、マニラに住んでいた時に隣のパサイ市のLTO で手続きをしたが、 手にした免許証に番号が2しかなかったのに気がついたのは大分後だった。当時は車しか運転しなかったので「まあ、いいか」と気にも止めなかったが、パラワンでスクーターを買ったので、バイクの免許を取ることにした。日本の免許証からの変更手続きよりも新規にフィリピンの免許を取ってしまった方が簡単だ。既にフィリピンでの車の免許は持っていたので、簡単な講習と実技試験だけ。

 試験の前に係が来て「どんなバイクに乗れるんだ?」と聞くので、「ハーレーでも何でももってこい」と答えると笑っていた。

 試験と言っても、ロータリーミッションのクラッチも無いバイクでLTO の前の道を行って帰って来るだけ。試験用のバイクのレンタル料だと言って50ペソ取ったくせに、肝心のバイクはフロントブレーキが効かない有り様。

 勿論合格。ずらっと並んだベンチに座って待つこと30分。名前を呼ばれて

免許証の引き換え用紙を貰った。

 免許証が出来るまで何時間掛かるか聞いた。腹が減っていたので何か食べに行こうかと思ったのだ。

 窓口の係りの答えは

「多分4ヶ月くらい」

 耳を疑った。

「4ヶ月? 4時間じゃないの?」

「多分4ヶ月くらい。6ヶ月後なら確実だと思う。その紙が免許証代わりだから心配ない」

 文句を言っても仕方ない。今、俺が居るのはフィリピン。 結局、新しい免許証を手に出来たのは1年後だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る