第53話 狩りごっこ(隠れんぼ)
「あっははは、待て待て〜」
「あはは、捕まえてごら〜ん」
浜辺で馬鹿ップルがする様な会話をしながら前方へ飛び込み、迫り来るウナの手から逃れる。
この迫り来る手が彼女自身の手ならこんな大袈裟には避けたりはしない。
現在、氷の虎に騎乗したウナと狩りごっこ中。
まだ操作に慣れてない氷の虎を捕まえるのは簡単だった。しかし、攻守交代して状況が一転。
操作に不慣れ故に手加減無しの一撃がくる。
おまけにウナと紐で結ばれてるから射程範囲外へ逃げる事も叶わない。
ティアナからウナへと相手が変わった理由がなんとなく分かった。
狩りごっこ鍛錬をする俺とティアナを羨ましく見ていた娘の為とかじゃない、煌式戦闘術の四極意を使えるようになったから鍛錬強度を上げたんだ。
今まで教わった事を総動員して相手をしている。
『
『
攻守交代を何度も繰り返す内に、気付けば極意の同時展開・発動をこなしていた。氷虎の造形が本物と変わりなくリアルで、猛獣に襲われていると錯覚したおかげで……。
ティアナとの狩りごっこは追う側でいる事の方が多く、捕まえるのが大変だった。ウナとの場合は逆に追われる側の方が長く、逃げ回るのが大変な上に危ない。
そして日の暮れ、今日初めて突如迫り来るマシヴさんの剛腕を防御する事に成功。
昨日までは空中で後方へ一回転飛ばされて受け身をとる十日間だった。今日は防御できたので受け身だけで済んだ。
超活性魔法を使用した
それ以外は今までと特に変わりなく、特盛の食事に入浴と入浴後のマッサージを受けて就寝。
色っぽい事は何一つ無い。強いてあげるなら彼女達にしてもらうマッサージだが、俺は受ける側な上にマチヨさんが指導役でいるから色っぽい事へ発展する可能性は皆無である。
もっともマッサージを受けている間に寝落ちしてしまうので寝た後に玩具にされている可能性が……無いな。あったら朝の生理現象で悩むわけ無いし。
ウナとの狩りごっこ鍛錬は回数を重ねるにつれてウナの氷虎操作の熟練度が増えて難易度が上がり、攻守交代までの間隔が延びていく。
鍛錬相手がウナに変わって五日くらいに気付いたが、運動場の地形が変わっている。
初めは平坦な黒土の運動場だったのが、日に日に凹凸や坂等が増えて平らな所が無くなった。
ウナは即座に適応して氷虎を操り三次元的な動きで迫る。一日かけてその動きに慣れた次の日には氷に黒土を混ぜ、氷虎に保護色を持たせ難易度を激変させてくる。
地形も簡単な凹凸が障害物のある多種多様な戦場に変わり、一日として同じ地形はなかった。
今や運動場は有名な忍者の名を冠するテレビ番組顔負けの地形と化している。
足場の強度も
結ばれていた紐が無くなり移動制限は解除されたが、対戦相手が女性陣へと代わり相手が増える。
氷虎に騎乗するウナ、能力制限を緩めたティアナに加えてマチヨさんが小さな氷虎を
それが運動場の地形変化に気付いた日から十日の間に起きた難易度の上昇内容である。
「見つけたー!」
息を殺し、極力足音も立てず黒土を固めた障害物の影から影へ移動する。それでもティアナには簡単に見つかってしまう。ただ、発見時にこうして大声をあげてくれるので即座に逃走を図れる。
ティアナは声がした方向から一直線に障害物や土山を粉砕しながら追ってくる。破砕音や上空に舞う粉塵から位置がわかるので対処しやすい。あくまで他と比べたらだが。
問題はティアナの声と進行方向から俺の居場所を予測し、ティアナの立てる破砕音に足音を隠し高速で障害物上を駆けてくる氷虎に乗るウナだ。
氷虎は運動場の黒土を俺が魔法で生成した水に混ぜて凍らせた黒氷で形成されている為、黒土を固めて形成される障害物や地形と全く同じ色をしているから厄介極まりない。
しかも氷虎はウナの魔法で造形を操作して動かしているので障害物に擬態して奇襲を掛けてくる事もザラにある。
一度ティアナの「形、自由自在ならアレやって」とウナに注文した時があった。
そのリクエストに出てきたのは蜘蛛型の下半身に三面六臂の上半身、三本の尻尾は先端が蛇の頭をした化物。取材と称して見に来ていたマゴノが目を輝かせていたので、恐らく異世界産漫画に出てくるのだろう。巨体さ故に氷の密度が下がって自重で崩壊していたが……。
そして現在の狩りごっこ鍛錬の中で最も厄介なのがマチヨさん操る
ウナの氷虎と同じく保護色をしているのだが濃淡に差があり、数を誤認しやすい。
最初は全員と敵対関係のお邪魔キャラだったのだが、ティアナとウナは意に介さず移動ついでに粉砕するもんだから俺にしか襲いかからなくなった。
俺も二人の様に破壊すればいいんだが……無理。
物理的に壊せなくはない。だが精神的に不可能。
デフォルメされて可愛らしさが強調された子猫にしか見えず、猫好きの俺には手が出せない。
おかげで罠が増える一方だ。
罠は踏むか触れると起動する魔法陣で、基本的に
魔法陣破壊の要領で即座に破壊して脱出できるがその一瞬が命取りになる。魔法陣の起動光と発動音で居場所が一発でバレて襲われかねない。
頭上の
「どーん! あれ? ソラがいない」
危うく土山と一緒に吹っ飛ばされるとこだった。
移動して身を潜めた障害物の向こう側にある土山が吹き飛び、土の雨が降る。
再び息を殺して、ティアナが過ぎ去るのを待つ。
「こっちにいる気がする!」
嘘だろ、声が俺の方を向いてないか。
それにちょっと待て、そこの
慌てて逃げ出すが、時既に遅し。
「はい、どーん!」
ティアナの一撃で粉砕される障害物の余波に巻き込まれ、宙を舞う。そこに氷子虎が起動した魔法陣の魔力鎖が胴に巻き付き、空中に縫い止められる。
「ナイス! ティア!」
直上からの襲撃。
拘束魔法は速攻で解除したが、空中では身動きが取れない。無我夢中で宙をかいて、何も無い空間を押し僅かに横にずれて氷虎の一撃を躱す——
「残念! はい、タッチ」
——が、氷虎に乗るウナに触れられ攻守交代。
な、何だったんだ今の!? って。
「ぶへら……」
「ソラ、受け身くらいとりなさいよ」
「大丈夫? ソラ」
起き上がり「大丈夫」と返し、攻守交代間の十秒を待ちながら考える。さっき何も無い空間を押したのは何だったのか。掌を握ったり開いたり突き出したりしてみるが、何も起きない。
「魔力の拡散と収束を瞬間的にしながらやるのよ」
「マチヨさん?」
運動場の外縁で氷子虎軍団を操作したいたはずのマチヨさんが背後の障害物上に立ち、こちらを見下していた。
「魔力操作の極地、奥義の一つ『空間掌握』はね。
魔力の拡散と収束。その間隔を極小まで縮める事で形無きモノを形在るモノとして触れる妙技なの」
実際に触れる方の掌握か。
喜色と企みに弧を描く口元を目にした瞬間、俺の身は宙を舞っていた。
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