首を絞める
私は今まで、殴り合いつかみ合いのケンカは1度しかしたことがない。
それも、小学校6年生の時のことだ。
相手は私よりもひと回り身体の小さな男だったが、とにかくどうしようもない悪ガキで、クラスの皆からも嫌われていた。
私もどう付き合ったらいいのか手を焼いていたのだが、その日はどうした経緯からだったか、やたら私に絡んできて、とうとうつかみ合い、そして殴り合いのケンカになったのである。
周りの皆は私を応援していた。しかしその時思い知ったのだが、小学生のパンチ力など知れたもので、相手のパンチも私のパンチも、当たってもさほど効かない。私はその頃もう柔道を3年もやっていたが、相手を投げ技でねじ伏せるなどできないのだった。
さて、どうするか。
周りからは、〇〇君、柔道、柔道、と言う声が聞こえる。
その時、私の頭を裸絞という技がかすめた。今の格闘技でいうチョークスリーパーというやつである。
その技は、腕を相手の首に絡めて締め上げ、落とす危険な技で、道場ではどこでも教える事が禁じられていた。危険だからである。
格闘技の試合なら、相手がマイッタの合図をすればレフリーが止めるが、マイッタをしなければ、それこそ大変なことになる。
私も道場ではその技を習ったことはない。父が昔柔道をやっており、父親から習ったのである。そして私は、それを完璧にマスターしていた。
私は迷った。その技を使うかどうか。
私がその技で相手を締め上げたら、相手はなすすべもなく、そして気を失うかも知れない。
そんな危険な技を使ったら、皆の私を見る目も変わってしまうかも知れない。
だいたいケンカといっても程度をわきまえるべきなのではないか。相手が悪いやつだからといって、何をしてもいいということにはならない。
結局、私はチョークスリーパーを使わなかった。そしてケンカは授業が始まるチャイムと、先生の登場でドローに終わった。
私はどうしてチョークスリーパーを使わなかったのだろう。それは今書いた通りだが、最近YouTubeなどでPRIDEなどを見た時、あの時のケンカがふと頭をよぎり、懐かしくも悔しい思いにとらわれるのである。
こんな技で堂々と勝負が決するなら、あのケンカは本来私の完勝だったはずだ、と。
でもあの悪ガキ、今どうしているだろう。
どんな人生を送ったんだろう。
時々、そんなことを思う。
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