18の頃

昔話が多くて恐縮だ。

しかもマイナーな世界の話。

つまらないかもしれないので、そのことをあらかじめお断りしておきたい。


18の頃、中目黒にアパートを借りて、渋谷の街中でアルバイトをして生計を立てていた。


友だちもろくになく、寂しい思いをしていたある日、ふと立ち寄った、自宅から15分ほど歩いたところにあった本屋で,つげ義春(私はつげ義春の旅路というタイトルで、拙い紹介文をいくつか書いている)さんの新作ばかりが載った本が、函入りの、立派な装丁で出版されているのを発見する。


小梅ちゃんのCMで有名になった林静一さんというイラストレーターの絵はがきや、珍しい同作者の劇画集など、私にとってはお宝のようなモノたちが、所狭しと並んでいる。


私はその頃安い時給で働いていたので、それらは少し高価に感じられたが、出費をきりつめ、片っ端から手に入れた。


そうするうち、あることがわかってきた。

その書店は北冬書房という、つげ義春さんや林静一さんなどの珍しい作品を出版している出版社でもあり、と、当然,そこの店主の高野さんという方は、つげ義春さんとも林静一さんとも深い親交のある、業界では有名な方だったのだ。


しかし事もあろうにである。

今思うと本当に申し訳ないのだが、その高野さんと話をするうち、若気の至りで私は何度も漫画論や映画論などをその方にふっかけたのである。


しかし高野さんも人のできた立派な方で、そんな若造の屁理屈に、真っ当な理屈で応じてくださったのである。


そんなことが何度もあった。

ちなみにこの高野さんというのは実名で、石井輝男監督の「ゲンセンカン主人」という映画の中にも、青林堂という出版社の編集部を写した場面で某俳優さんによってちゃんと登場している。


でも、あの頃は寂しかった。

つげ義春さんの立派な本を抱え、安い定食屋でトンカツ定食などを食べたりした。500円だった。


最近、ちょっとお小遣いに困って、そうした本の中の2冊をメル○リで手放した。

高値でも、買い手はすぐについた。

あんな珍しい本は、もう2度と手に入れるチャンスはないだろう。

考えてみれば惜しいことをしたものである。

そうして手に入れたコガネは、やっぱり林静一さんデザインのパスタ皿や小鉢に姿を変え、一部はペットのお菓子となって柴犬キリの胃袋の中に消えた。


そういえばメル○リではつげ義春さんは勿論、林静一さんなどは大人気で、最近はレトロな林静一さんのイラストが入った小箱を買った。

明日か明後日届く予定である。

妻にプレゼントしようと思っている。

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