腎臓のがん?
ひどい腰痛を患って、総合病院で腰のMRIを撮ったら、たまたま腎臓に大きな嚢胞(ノウホウ)という、水分の袋が写っていた。
泌尿器科に回され、検査を受けることになった。
腎嚢胞というできものではないかと言われ、悪性である場合は少ないが、とにかくCTを撮って見てみないことには何とも言えないと言われた。
妻にはとても話せなかった。なぜなら、今まだ大分ある家のローンをまとめて返済しようという計画を立てていて、妻はローンがなくなるのをとても楽しみにしていたから、癌だ、入院だ、手術だとなったら、いっぺんに生活設計が狂ってしまう。
こういう時に限って、人間は悪いことを考えてしまうもので,私は随分、その入院、手術に怯えた。
と、不思議なことが起こった。
朝、私の乗っているバスに20歳くらいの女の子が乗ってくるようになったのだが、その子が妙に私の方をジロジロ見るのだ。
初めは気にしていなかったのだが、ある日、友達2人と一緒に乗ってきて、その子は2人にいかにもあの人、あの人、というように私の方を意識し、そしてニコニコ笑っているのだ。
もう、その子が何かの理由で私を意識し、チラチラと見ている対象が私なのは間違いなかった。
一体どういうことなのだろう?
私は身に覚えがない。まして相手は20歳くらいだから知り合いであるはずもない。
知り合いの子供であるということもなさそうだ。
私はなぜか、その時腎臓の病気を思い出した。私は腎臓の病気で余命いくばくもない、そのことをあの子は知っている、たぶんあの世の使いか何かなのではあるまいか。
だって、あんな若い子が、私みたいなジジイに興味を持つ理由があるとしたら、そんなことくらいしか考えられない。
CTの検査が終わり、数日後結果を聞くことになった。
私はいよいよ気が重くなった。悪性だったらどうしよう。妻に何と話したらいいのか。
いよいよ結果を聞く前の日、バスには例の女の子は乗ってこなかった。その時私は、少し気が楽になるのを感じた。
きっと良性に違いない。
私は何故かそう思ったのだ。
結果は、悪性ではないが、時々検査して、経過を見る必要があるというものだった。
2ヶ月後のエコー検査を予約して、私は病院を後にした。それが先週末のこと。
それ以降、まだ私はその女の子を見かけていない。
あの子は一体なんだったのだろう。
もしかして、本当にあの世からの使いだったのではあるまいか。
妻にもいきさつを話し、私たちは生活設計を崩さずにすんだ。
随分ヒヤヒヤさせられた日々だった。
今はホットひと息、神様に感謝しているところだ。
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