バルセロナの女性たち



バルセロナに行ったばかりの頃、私はよく奥さんの買い物について行った。


市場でもスーパーでも、皆ちゃんと並んで買い物をしていた。

「誰が1番最後ですか?」

と声をかけ、その後ろに並ぶという習慣があった。


ある市場を歩いている時、奥さんが、

「君はどんな子が好き? キレイだと思う子いる?」

と聞いたので、私は

「たとえばあの子なんかキレイだよ」

と、売り場の、まだ十代かと思われる金髪の女の子のことを言った。

と、奥さんは突然、

「この日本人があんたのこと綺麗だって」

とその子に言ったので、私はあわてて逃げ出した。

恥ずかしくてその子の顔も見られない。


しかしあとで知るのだが、スペインでは女の子を褒めるのは悪いことではなく、むしろ男はそうすべき、という風潮もあるようだった。

しかしそれはバルセロナではそれほどでもない。

南部の方ではもっとそうかもしれない。


バルセロナはスペインの中でもちょっと異質だ。

バスク地方はもっと異質な文化を持っている。

バルセロナはカタラン語といって、この地方独特の言語を持ち、自分たちはスペイン人ではないという意識を持った人も多い。


だから南部の方が、もっと私たちのイメージするスペインらしさがあるかもしれない。



私たちはよく散歩をしたが、私は何もかもがまだ新鮮で、女の子もキレイに見えて仕方がなかった。

40年前だが、ポルノもとっくに解禁になっていたので、そういう解放感も私にとってはあったかもしれない。


ある日港の近くを歩いていると、十代くらいの女の子が2、3人、

「時計持ってる? 今何時?」

と私に尋ねてきた。

スペイン語の意味がまだ一瞬分からなかったが、彼女たちの仕草で、時間を聞いているのだと分かった。

腕時計を見せると、彼女らは楽しそうに

「ありがとう」

と言って去って行った。

どう見ても、本当に時間を知りたかったようには見えず、たぶん外国人に話しかけたかったのだろうと私は思った。


島谷さんに、

「こういうことってよくあるの?」

と尋ねると、

「意外にね」

という返事だった。



ところで、スペイン南部の方は黒髪の人も多いけど、バルセロナあたりは黒髪の人は多くない。むしろ金髪の人の方が多い。

身長は日本人よりやや高いかな、という印象だったが、40年後の今は日本人も平均身長が高くなっているだろうから、もうほとんど差はないかもしれない。



散歩をしていて、ちょっといかがわしい通りや裏通りを歩くと、たまに売春婦を見かけた。

島谷さんの住んでいたところが、わりと港から近く、あまりガラが良くなかったということもあるのだろう。


それにしても売春婦をよく見かけた。

妊婦の売春婦もいた。

ある店では、明らかに十代の女の子たちが化粧をして、10人くらいたむろっていた。

「あれは男を待っている女の子たち」

と島谷さんが言った。

その店の前を通る時、私はドキドキと心臓が高鳴った。


段々なまめかしい話になってきたので、今回はこの辺にしておこうと思う。


とにもかくにも、私はバルセロナを少しずつ知り始めたということだ。

いいところも、悪いところも。


話は一気に飛んで、最後に日本に帰る2、3か月前の話。


その頃私が住んでいた安宿の近くに、食料品店があり、そこの17、18歳くらいの娘は本当に可愛かった。

私はバルセロナ滞在の最後に、バルセロナで、これまで見た女の子の中で1番キレイな子を見ることになる。

あの子は本当にキレイだった。


変な話だが、バルセロナで沢山見た売春婦と、この女の子が私のうちで合体して、「異国の忘れもの」という拙作の着想が生まれた。


バルセロナの女性たち。

最初は、私にはウキウキとときめきしかなかった。

でも、バルセロナの女の子というと、私はどんな子よりも、あの、最後の頃の食料品店の娘を思い出すのだ。


そこに至る遥か前のお話を、出来たらまた書こうと思ってます。

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