ムンクの「叫び」のように
きょうは医院の禁煙外来へ行く日だったが、サボってしまった。なんだか面倒くさくなったのだ。もう禁煙補助剤のパッチも貼っていない。だから七転八倒の日々である。
食事をしてはタバコを吸いたいという欲求と格闘し、コーヒーを飲んでは「タバコー!」と心の中で叫んでいる。
私はもともとかなりのヘビースモーカーだった。重い病気(ニコチン依存症)だったと言っていい。だから禁煙は7、8回挑戦し、ことごとく失敗してきた。今度こそ、という思いで今回の禁煙に臨んでいる。
しかし、そもそもタバコを世に広めたのは誰なのだ?
昔の映画では、日本映画でも、西部劇でも、あるいはフィルム・ノワールでも、タバコを吸わないヒーローなどいなかった。カッコいい男に、タバコを吸わないヤツなんていなかった。
それが今はタバコを吸える場所を捜すのさえ困難な時代になってしまった。
きょうは仕事が終わって家に帰ってから、ビールと日本酒を呑んだ。飲めない酒でも呑むと無性にタバコが欲しくなる。「こんなに苦しいんだったら、いっそ吸ってしまえ!」と心の中で病魔が囁く。この囁きに、これまでは毎回負けてきた。ちょうど大相撲でいえば8敗くらいして、負け越しが決まったくらいの回数だ。
しかし相撲と禁煙が違うのは、禁煙は一勝すればいいということだ。たったの一回、完全に勝利すれば、それは一生ついてまる。こんなおいしい勝負が、人生にいくつあるだろう。
子供はキャンプに出かけている。妻は仕事のあと、友人と食事に行くそうだ。
私は酒のあとのカップラーメンをすすりながら1人寂しく思う。
今宵も苦しさに咽喉をかきむしるのか。頭を押さえてうずくまるのか。
私は自分が変形していくのを感じる。エゴンシーレの絵のように。あるいはカフカの小説のように、明朝カブトムシになってしまうのだ。いや、ゴキブリかもしれない。
それでも負けてたまるか。私は同じゴキブリでも、タバコを吸わないゴキブリに今度はなりたい。
こうして書いている間にも、ハラワタはタバコを求めてグドン、グドンと唸っている。
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