異世界に飽きた魔導師
風間 健斗
第1話 異世界
「あ〜あ、またかよ...」と周りが少し暗くて狭い、足場も悪く異臭も漂うこの場所で、同じ言葉を繰り返す。
不思議と嫌な感じもなく、かといって好きとも思わないこの場所は、王都カドラスから遥か北に位置する洞窟[墓場の巣窟]であった。
「なんで毎回ここになるんだよ、いい加減もう少しマシな所を選んでくれてもいいじゃんか!あいつめ!」
誰もいない静かな洞窟に罵声が響き渡った。今にも落ちそうだった水滴は落ち、コウモリ達がざわめきだした。
彼が怒っているのも当然のことだ。彼は今回で異世界に飛ばされる事8回目である。つまり、同じ場所に8回飛ばされ、同じ使徒による導きでこの異世界にやってきてるのである。
「あの使徒、今度はなんの用事で俺をここに呼んだんだ?用が済んだらすぐに現世に戻すくせに、いつも内容は言わない...」
そう愚痴を言っていると洞窟の奥から足音が聞こえてくる。奥から現れたのは、ゴブリンである。
この異世界ではモンスターにそれぞれランクがある、上からS.A.B.C.D.Eと分けられており、ゴブリンはその中でもC級ランクに相当するモンスターである。1匹倒すのにハンターが5人必要とされているランクだ。ここが墓場の巣窟と言われる所以もこのゴブリン達の縄張りであるからだ。
「ちょうどこの飽きれた世界に怒りをぶつけたかったんだよ」
ゴブリンに向けて右手を上げ、彼は唱えた。
「連鎖式火炎奥義第3 火柱」
すると、地面から次々と火柱が上がりゴブリンを巻き込んだ。あまりの火力に視界が真っ赤に染まり、次に煙が巻き上がった。
ゴブリンは跡形もなく消え、あたりの石は燃え、洞窟内は少し明るくなっていた。彼はどこか物足りなさそうな表情を浮かべ、洞窟の出口に向かった。
彼は、洞窟を出てすぐ南にあるナード村に向かった。そこには、冒険者が集うギルドや酒場などがあり、非常に有名な村でもある。彼がその村に入るとすぐに村がざわつきだした。村人達の声が聞こえてくる。
「あの人は、Sランク魔導師のケインじゃない!?」
「え!、2年前に突然やってきて魔王から私たちを守ってくれた魔導師様!?」
「最近は姿を見る人もおらず、亡くなったと言われていたが生きていたんだな」
そう彼の名はケイン、何度も異世界に飛ばされ、この世界に飽き始めている彼は、世界に3人しかいないSランク魔導師である。
冒険者にもモンスター同様に実力・実績などでランクが分けられている。ケインはその中でも1番高いランクのSランク冒険者である。
相変わらずランクが好きな世界なんだなと思いながら、ケインはギルドへ向かった。
ギルドでは、ギルドマスター兼ナード村の村長であるグスタフが待っていた。
「随分と久しい顔じゃねーかケイン」
「ここいら半年誰もお前さんの事を見たって情報がねーからどうしたのかと思ったが、また現世に帰らされてたのか?」
「どうもグスタフさん、あなたの予想通り少し里帰りをしててね」
「あははは!それはお疲れさんだったな。相変わらず人前では、しっかりとした口調で話すもんだな。」
気さくに話すこの男は昔ケインとパーティーを組んでいた1人、グスタフである。実力はもちろん、ケインが異世界の人だと知っている数少ない仲間である。
「お前が来たって事はまたなにかしら起きるんだろうな。ここで話しててもなんだ、上に案内するからついてきてくれ。ここでは言えない話もあるんだろう?」
「相変わらず話がわかる人で助かるよ」
そういって2人はギルド2階にある室長室の部屋に入っていった。
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