第4話

 目指せ普通の人。とりきまなくても、現代日本で俺の才能は役に立たないので、いわゆる普通の人にしかなりません。


「え~、元異世界人って普通じゃないと思う」


 今日も今日とてお茶しに来た小動物のツッコミが痛い。

 母さんもなぜか小動物を気に入ったので、あれから時々、小暮さんをおやつに呼んでいる。今日はなんかの同人誌にってたバターケーキの試食だそうな。美味いからいいけど。


「いや、厨二病にしか聞こえないからさ、それ……」

「地味にダメージ入ってるな」


 冷静なコメントとか要らないです。ダメージが加算されました。


「父さん、慰めようとか思わないわけ?」

「いやーおまえの昔の肖像画、見ちゃったからなー」


 父さんが笑い出したのでダメージ10倍。


「ええ~、なんですかそれ」


 小動物は好奇心で目をキラキラさせている。ダメージさらに追加。


「あの鎧、装飾用だろ?」


 父さん、なんかにこにこしながら解説を求めてきました。


「あんなん実用になるかっ!つーか、実際に着てたわけじゃないから!!」

「え、どんなのだったんですか?」

「興味持たなくていいよ」


 小動物に知られたくないんですが、しかし。


「基本真っ黒で、金とか銀とかでハデな飾りがついてて、お年頃の少年少女のハートをがっちりつかみそうな暗黒デザインだったよ」


 父さん、自分で言ってゲラゲラ笑うのひどくないですかね。


「あんこくでざいん……」


 小動物がいい笑顔になった。


「あの絵ならちゃんと写真とってあるわよ、ほら」

「ちょ!?」


 母さんがスマホに表示して見せたのは、たしかにあの黒歴史な肖像画だった。

 言い訳しておくと、服や甲冑のデザインは俺の趣味ではない。肖像画を注文した姫さんの好みである。そもそも絵のモデルになった時に着てたのは普通の騎士服だったし、あの肖像画はこっちで言うならフォトショで合成したようなもんだ。


「あの頃はガラケーしかなかったから、画質悪いけどね。たまたまケータイ持ってたから、撮ったのよ」


 誘拐騒ぎがあった後、何日かはあっちにいたからね。

 その時に撮影してたんだろうけど、母さん図太すぎです。


「それわざわざスマホに移す!?」

「あんたが何かやったら、これ公開するからね?」

「Noooooゥ~!!!」

「あ、ほんとだ、すごい暗黒デザインですね」


 小動物にも笑われて、ダメージがさらに10倍になった気が。


「今着ても良いんじゃない?コスプレならいけないかな」


 誰だコスプレなんて言えるくらい小動物を洗脳したのは。あ、母さんか。


「それ却下。恥ずかしくて死ねる」

「本人に着せると面白いのに」

「本人ちゃうわっ!本人だけど!」


 俺は日本の大学生の山西雄太です。アルバスさんはもう死んでるからね!?


「セルフツッコミ入れられるようになったのねえ、育てた甲斐があったわぁ」

「そんな成長要らない」

「しかし育った」


 小動物が容赦なく追い打ちをかけてきた。

 なんということでしょう、このしょうどうぶつはむじひなきばをそなえていたのです(ぼう)


「じゃあ画像はサンプルで公開して、誰かに作って着てもらうとか」

「マジやめて」

「公開したって大丈夫でしょ、だれもこれが雄太だと思わないわよ。顔違うし」


 母さん、容赦ない。


「俺が!やなの!!」


 中身は俺ですよ?山西さんちの雄太君ですよ??


「甘いもの食べると気分が落ち着くぞ?」


 父さんはごってりしたバターケーキをうれしそうに食べながら言うし。

 我が家に俺の味方はいなかった。


「良いじゃないの、ちょっとコスプレしたと思えば」

「思えるか!」

「あ~でもこのデザイン、次に使ったらどうですか?今のシリーズってオリジナルのファンタジーですよね?」


 母さんの趣味は同人誌作成で、夏と冬の例大祭コミケにも欠かさず通う筋金入りだ。

 ちなみに5年位前からファンタジーシリーズを出している。オリジナルなんて売れないとぼやいてるくせに、それほど在庫を抱えてないのが謎だ。


「息子をネタにするのってどうよ」


 ちょっとひどくないですかね。

 と思ったんだけど、


「あんたの事なら育児漫画のネタにもしたから、今更よ?」


 と、母さんは白々しい笑顔で言い切った。


「ちょっとぉ!?」

「え~、良いじゃないですか。アルバスさんが出てくるのも面白そう」


 小動物は『無難な作品』を1セット押し付けられた挙句に嵌っているけど、それってどうよというのが俺の正直な感想。

 次に押し付けられるのって、絶対BLだろうし。母親が貴腐人なのは色々諦めてるけど、小動物まで腐女子になるのはちょっとやめてほしい。


「そうね~、悪くは無いわよねえ」

「あれ、でもこれ次回の敵幹部の衣装っぽくないですか」

「襟回りは参考にしたから」


 テヘペロ、と付け足したくなるような物言いに、俺はテーブルに突っ伏した。


「まったくもう、母さんも手加減しろよ……」

「テンプレ勇者やってた息子なんて、ネタにする以外ないでしょ?」

「それ黒歴史だから!」


 そりゃまあ少数精鋭の勇者なんてアレですよ、単なる使い捨ての特攻部隊です。使い捨て前提だから上層部は補給路すら考えてくれないし、目的地まで敵地を三ヶ月歩かなきゃいけないし、役に立つ武器は聖剣だけだし、とないない尽くしで無茶振りされただけ。

 あんなもん作戦立てる奴がどうかしてますって。言いなりになって参加した俺も頭悪すぎ。


「ええ~。そろそろネタ提供してくれてもいいと思うんだけど」

「ぜっっっったいにイヤだ」

「雄太のケチ」

「黒歴史の発掘に断固抗議します」

「テンプレ勇者のくせに~」

「ちょっとは遠慮しようよ!?」


 息子が元異世界人だってことに全く動じてないどころか、ネタにする気満々の母親ってどうよ。


「雄太も少しおかーさんに協力してくれていいと思うのよ~」

「いやです」


 グレずに育った自分はつくづく偉いと思いました。まる。

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