ex 何も変わらない。変えられない
助けに入った時、自分に向けられたエイジの表情を見て、色々と察する事ができた。
強大な敵と戦う為の増援が来た事を喜ぶような、そんな表情ではなく。
ただ犠牲者が増える事に絶望しているような、そんな表情。
そんな表情を、自身の実力を把握しているエイジが浮かべていた。
……部屋の中には激しい戦闘の跡が残っている。
つまりはそれを残すような戦いのなかで、それだけの実力差を肌で感じ取ったのだろう。
「うわ、その禍々しい雰囲気……エルちゃんと同じだね。いやー怖いなー」
「……」
どうやらエルはバーストモードを会得したらしい。
した上であの状況にまで追い込まれたらしい。
相手に傷一つ付けられずに。
おそらくルミア・マルティネスであろう人間に完敗した。
「でも良かった。研究材料は一人より二人の方が良いよね」
……そして自分も負ける。
バーストモードを会得したエルが傷一つ付けられなかったのだとすれば、おそらく実力差が無い自分では勝てない。
事前に聞いていた情報も重ねて考えれば、万全な状態でエルを剣化したエイジかバーストモードのエルと自分に、後方支援でシオンが居たとしても、まともな勝負になるかすら分からない。
それだけの実力差が自分と目の前の人間の間に存在する。
だけど何も自分の勝利条件は、目の前のサイコパスを殺す事ではない。
時間を稼ぐ。
その間にエイジはエルを。シオンは自身の契約精霊を連れ出す。
それができれば勝ちだ。
例えそこに自分がいなくとも。
「……それにしてもさ、泣けてくるよね。仲間の為に自分を犠牲にするなんて。それも精霊が人間を助けようとしているんだから。感動して涙が出ちゃうよ」
そんな心にも無い事を言うルミア。
そしてそれを言った後、思い出したように言う。
「あ、そういえばなんだけどさ……キミ達が出し抜いたウチの霊装持ちの研究者なんだけどさ……そろそろ戻ってくる頃じゃない? 今頃逃がしたテロリスト君の前に立ち塞がっていたりして」
「……ッ!?」
確かに戻ってきてもおかしくないような時間が経過していて。
目の前の相手がそう言うのなら、実際にそれが起きている気がして。
だとすれば……事態は何も好転していなくて。
「じゃあ始めよっか。でもごめんだけど今はちょっと急いでるから……泣いて喚くのは実験でって事で」
「……ッ」
「よし。じゃあ、いっくよー!」
そして開幕する。
勝利条件も何もない。
何をしたってどうにもならない。
なんの意味ももたらさない。
ただの敗戦が。
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