ex 一難去らず、重なり積もる

 エルはゆっくりと目を開いた。


「……ッ」


 全身に激痛が走り、その痛みで声にならない声が出る。

 ……誰かに背負われている。

 一体何がどうして、今どうなっている?


「エル! 目ェ覚ましたか! エル!」


「え、エイジさん……」


 そこでようやくエイジに背負われて移動している事に気付いた。

 それに気付いて、少しずつこの状況に至るまでの経緯を理解し始める。


 エイジと代わってルミアと戦っていた筈だ。

 そして全身の激痛が酷くて、多分左腕だけじゃなくて両足の骨も折られている。

 ……それで気を失った。もう何度目なのか分からない敗北を喫した。

 では……どうして今、エイジに背負われて移動しているのだろうか。


 とてもエイジには言えなかったが、ルミアを倒して此処にいるとは思えなかった。

 そしてルミア・マルティネスからは逃げられない。

 背を向けて逃げることは大きな隙を生む。その隙を抱えて逃げられ無い程の実力差があり。

 ルミアもエイジと自分を逃がすとは思えない。


「……エイジさん、あれから一体何が……ッ」


「……ッ」


 エイジはその問いにすぐには答えなかった。

 それだけで、その問いがエイジの傷を抉るような問いだと。

 聞いてはならなかった問いだと言う事を察した。

 だけど……絞り出すように、エイジは答える。


「レベッカが……助けてくれた……ッ」


「レベッカさんが……」


 どうやらレベッカも此処に来ていたらしい。

 そのレベッカもあの場に辿り着き、加勢に入った。


 ……そのレベッカはどうしたのかと、口にしそうになって踏み留まった。

 聞かなくても察しが付いて。

 そしてそれを絶対にエイジには聞いたら駄目な事も分かっていて。


「くそ……なんで……なんでこんな……ッ!」


 かき消えそうな小さな声でそう口にするエイジに、なんの言葉も返してやれない。

 そしてそもそも、何か言葉を返せるような状況でも無かった。


「……ッ」


 開けた場所に入った時、エイジは立ち止まった。

 立ち止まらざるを得なかった。


「さっきはよくも出し抜いてくれたな」


「……ッ」


 霊装を持った男が三人が、自分達の行く手を遮るように立っていた。

 そしてもしも彼らが持つのが自分が倒したような雑魚の物ではなく……ルミアが使っていたような、ある程度完成した霊装を持っているのだとすれば。

 単純計算で、エルを刀にしたエイジと同等の戦力が三人立ち塞がっている事になる。


 そんな……どうしようもないような状況。


「……くそ」


 そう呟いて、エイジはエルを刀へと変える。


「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 刀に変えて開戦する。

 単純な力と数の暴力を相手に。

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