82 無力、役不足、足手まとい
禍々しい雰囲気。
それが何かはよく理解している。
暴走する精霊やレベッカのようなその力を使いこなす者が纏う雰囲気。
それをエルが纏っていた。
そしてそれは前者ではない筈で。そこまで理不尽な事はきっと無い筈で。
だとすれば後者。
レベッカが見せたような通常の精霊の域を超えた強い力。
その力をエルが纏い……俺を助けてくれた。
そしてそれに対し驚いている暇もなく、状況は動いた。
「……ッ」
次の瞬間、俺達を中心に無数の風の槍が出現し、弾む球体に向けて射出し相殺していく。
それと同時に俺から手を離したエルは手元に小型の結界を展開。
そこに何やら風を纏わせたのを感じた。
そしてそう認識した瞬間、打ち漏らした球体がこちらに向けて超高速で接近してくる。
「動かないでくださいエイジさん!」
エルがそう叫んだ次の瞬間、俺達の目の前で破裂する。
それに対しエルは事前に用意した結界を向け、そこに更に強く風を纏わせる。
結果眼前に現れたのは……結界を媒体にした風の防壁。
日本刀に姿を変えたエルの力で振るう事が出来ていた、戦闘における俺の防御の要。
そうして作り出された風の防壁は、破裂した球体の爆風を完全に防ぎ切る。
ルミアの攻撃を、全部防ぎ切った。
「いやーお見事だね、エルちゃん」
声の方に視線を向けると、笑みを浮かべながら手を叩くルミアが居る。
「流石初見で球体が炸裂させる奥の手以外は余裕で躱してみせただけあるね。二回目となると完全に防がれちゃったか……うん、本当に凄い。本当に凄いよ……エルちゃんはね」
そう言ってルミアは、明確に俺の方に視線を向ける。
「それに比べて酷いよねテロリスト君は。気付いてる? エルちゃんが助けに入らなければキミは今頃致命傷を負っていた。酷く無駄しかない動きだったよ……正直呆れる位に。そんな程度で此処に来て何をするつもりだったの?」
「……ッ」
「自分が助けたい相手より遥かに格下なキミは、一体何ができるつもりだったの?」
「黙ってください」
そう言ってエルが一歩前に出る。
俺を……ルミアから守るように。
「これ以上……エイジさんを馬鹿にしないでください!」
「……ふーん。少しだけ目に生気が戻ってるねえ。まあそりゃそうか。エルちゃんが頑張らないと、後ろの足手纏いが死んじゃう訳だし」
「足手纏いなんかじゃ--」
「そう思うんだったら一旦攻撃も止んだんだし、また武器にしてもらえばいいじゃん。今一歩前に出たって事はそう言う事でしょ。後ろの役立たずに戦わせてもサンドバッグにしかならないから……怖くて手足が震えても戦わないといけない。そうだよね? エルちゃん」
「……エイジさん」
ルミアの言葉にそれ以上返答する事はなく、エルは俺に向けて言う。
「あんな奴の言葉に耳を貸さないでください……エイジさんがどれだけ頼れる人なのかって事。私は良く知ってますから」
そう言いながら、周囲に風の槍を展開する。
無数の風の槍を。
俺を遥かに上回る技術力を。
震えた手で。
震えた声で。
背後の俺を守るように。
「……ッ」
エルは頼れる人だと言ってくれた。
言ってくれた……だけど。
現実的な話、ルミアの言葉はどこまでも的を得ている。
目の前の悪魔に対して完全に怯え切っているのが分かるエルを前に立たせてしまっているのだから。
守られてしまっているのだから。
今の俺はどこからどう見ても……足手纏いでしかない。
だけどそれが分かっていても、今の俺にその事実を覆すだけの力は無くて。
だから始まってしまう。
「おーい、返事してよ……まあいいや。じゃあ気を取り直してエルちゃん、再開といこうよ。まああんまりエルちゃん達に割く時間無くなっちゃってるから……巻いていくけどね!」
絶対に始めさせてはならなかった戦いが。
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