46 精霊と世界の意思について 上

「今自分が何を言ったのか分かっているのか!?」


 シオンは俺の掴んで、酷く重い声音で俺に言う。

 ……当然の反応だと思う。そういう反応をする様な人間だからこそ、シオンは今此処にいるんだ。

 そしてそんなシオンの反応を、俺はとてもまともで真っ当な反応だと思う。

 だけどきっと、世界の意思という奴からすれば大きな間違いなのだろう。

 ……俺達の世界の人間と同じで。


「ちょ、ちょっと落着けシオン!」


「落着けるか! それはキミが絶対に言っちゃいけない事だろう! ふざけるなよエイジ君! 一体なんだ! なんのつもりだ! 何故急にそんなふざけた冗談を……冗談を……」


 シオンは俺に向かって怒鳴り散らすが、それでもやがて何かが引っかかった様に黙り込む。

 俺の表情とかを見て、なんとなく色々と察してくれたのかもしれない。

 そして少しだけ間を空けてから、少しだけ落ち着いた様に俺に言う。


「……まずこれだけ答えろ、エイジ君。今のキミには精霊がどういう存在に見えている?」


「人間と同じに見えるよ。それだけは変わっちゃいねえ」


「……だよね。だからキミはこの世界に戻ってきた。そして今この場所に辿りついた」


「ああ」


「……そんなキミがなんでそんな事を言った。冗談ではなく真剣に。絶対にこんなどうしようもない冗談なんて絶対に言わないであろうキミが」


 そしてシオンは静かに聞いてくる。

 とても、苦い表情で。


「……一体キミは何を見たんだ」


「そんな事を言わねえといけなくなるような存在を見てきた」


 俺はあの時の事を。イルミナティの連中と邂逅した時の事を思い返す。


「……絶対ツッコみたい所とかあるだろうけど、一回最後まで聞いてくれ。いいか?」


「分かった。とりあえず言える事は全部言ってくれ」


「ああ」


 そして俺はシオンにイルミナティの人間と接触した時の事を。

 そしてそもそもそれを語るには多分イルミナティの連中とのやりとりだけを話すだけじゃ伝わらなくて。どこかで大きな誤解を生む可能性もあって。それに別にこういった話をするのが得意な訳じゃない。

 だからとりあえず省略はしているけれど、結果的に俺が地球に辿りついてからイルミナティの連中と接触するまでの話をシオンにする事にした。

 少なくともこれで、少しでも俺と同じ様な目線で物事を見てくれると思う。


「……だからまあ、その連中と接触して得た情報はそんなもんだ」


「なる程。それで資源という訳か……馬鹿げた話だよ」


 シオンは複雑な表情を浮かべて俺に言う。


「キミが向こうの世界に辿り着いてから、そのイルミナティという連中に遭遇したまでの話は間違いなく正しいと思うよ。それは疑う余地はないだけどその先。そのイルミナティという連中の話は本当なのか? キミが盛大な作り話をきかされているという可能性は」


「まあ、厳密に言えばゼロじゃねえよ」


 だけど、とシオンに言う。


「話した通り精霊を暴走させるメリットというのがそもそも存在しねえんだ。そして実際にソイツらにここまで結構助けてもらった。そもそも俺達に接触してきたのだってどう考えたってアイツらにとっては不都合な話だ。あの時俺はアイツらにどんな感情向けていいのか分からなかったけどよ、でも一応の解決はした今じゃ、アイツらは精霊の為に必死になってくれている連中だってのは分かるからさ。あの話は嘘じゃ無かったんだと思うよ」


「……」


「それに俺は実際にエネミーという存在を目にした。こんなもん口頭で伝わるわけがなかったと思うけどよ、アレをみれば全部本当だと思わざるを得なかった。まあ……その、アレだ。俺の説明はあんまりうまく無かったとは思うけど、俺はこの話を本当だと思っている」


 だから。


「だからまあ、お前が見た事もないその連中の事は信用できなくてもよ、できれば俺を信じてくれ」


「……信じてるさ。キミの事は。キミが精霊を資源だと言ってもすぐには殴りかからなかった位にはね」


 そう言ったシオンは一拍空けてから言う。


「……ただ僕は無意味に否定したかっただけだ。分かってるよ。それがおそらく嘘では無い事位」


 シオンは言う。


「実は話を聞いて少し腑に落ちた事があるんだ」


「なんだよ」


「今こうして僕達の会話が成立している理由だよ」


「お前なに言って……」


 そう言いかけて、ずっと考えずにいた最大級に大きな疑問に改めてぶちあたった。

 だってそうだ。日本から出ただけで日本語なんてのはそうそう通じなくなるのに。

 それなのに基本的に日本語しか話す事ができない俺が、異世界人であるシオン・クロウリーとの会話を普通に成立させている。

 そんな、冷静に考えれば本当に意味の分からない現象。


「……そういう事か」


「理解したかい? 今僕達の会話が成立しているのは本来あり得ない事の筈なんだ。それなのにあまりにも都合よく会話が成立している。そんな都合のいい状態に持っていくには、それこそあまりに都合のいい何かが起きなければならない。そして精霊が人間にとっての都合のいい資源なら。人間に都合のいい事を起こす為に存在しているのだとすれば。無理矢理でも、こじつけでも。一応の説明ができる」


「……確かに一応説明できるな」


「……したくはないけどね。それだけじゃない。他にも精霊が人間の為の資源だと仮定すれば、納得のいく事はいくらでもある」


 そしてシオンは苦笑いを浮かべる。


「最悪だよ。この世界が精霊にとって辛い環境だと考えていたのに……これじゃあこの世のどこにも、精霊がまともに生きれる場所なんてないじゃないか」

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