言葉も通じない世界だが、奴隷を買えたのでイチャイチャします。〜うちの嫁が一番可愛い〜

楽しい異世界生活の始まり。


「は?」


 目を覚ました僕は、そんな声を上げていた。


 は?


 もう一度、今度は心の中で声を上げた後に状況を確認する。


 なんだここは?いや、まあ。見ればわかるけど。いや、わかんねーよ。なんで目が覚めたら青空が広がってんの?なんで何も無い草原で寝てんの?意味わんないんだけど。てか、今何時だよ?今日は期末試験だぞ?学校どうするよ?


 ガサゴソ。


 ポケットを弄ってみたがお目当ての物は見つからない。


 スマホで時間や現在地などを調べようと思ったが、そういえば寝る前に充電したまんまだったわ。


 僕は、やってらんねー!っと、そのまま不貞寝した。



 ◆◇◆◇◆



《ジリジリジリジリ!!!!》


 はっ!?やっべ!今日試験!遅k


「は?」


 ……。


 ああ。そういえば草原にいたんだった。


 いや、ああ。じゃねぇから!何納得してんだよ!何も理解できねーよ!てか、なんでスマホあんだよ!体で下敷きにしてたら気づかねーよ!石か何かかと勘違いしてたよ!見て確認すればよかったな!


《ジリジリジリジリ!!!!》


 はぁ。とりまアラーム止めよ。うるせーし。


 体をずらし、スマホを手に取る。顔に寄せるだけでついた画面の日付は、やっぱり試験日。


 ふぅ。試験、終わったな。


 僕は再び瞳を閉じた。





 が、流石に眠れない。日差しが天高く登り、若干暑苦しい。


 そして、ここに来て初めて意識が覚醒した。


 眼前に広がるのは、Windows xpの初期背景みたいに綺麗に刈り込まれた芝生、のような草原と、澄み渡る青空のみ。森や山、海や川などのオブジェクトが一つとして見当たらない。


 え、なにこれ?どういう状況?いや、待って?あれ?夢……だよな?


 ……。


 頰を抓ってみたところ、目尻に涙が溜まる。


「いだだだだっ!」


 ついでに声も出た。


 覚めて欲しいあまりに爪を立てて抓った頬は、血が滲んでいる。


 誰がそこまでしろと?


 ……。


 僕はスマホを取り出した。



 ◆◇◆◇◆



 ふぅ(賢者タイム)。


 嫁(2次元)を眺めて心を落ち着かせた僕は、相変わらずの現状に落胆しつつも状況を整理することにした。


 昨日は確か、学校帰りにコンビニで買ったメロンパンを齧りながら夜遅くまで勉強をしていたんだ。それから朝日が昇り始める頃にベッドへと潜り……起きたらこの草原。うん。さっぱりわからん。


 手持ちにはリンゴマークのロゴが入った、画面にボタンが無いタイプの最新型スマホ(手帳型ケース付き)のみで、現在は圏外。バッテリー残量は86%と、家にいたら絶対に充電を開始するレベルで少ない。


 周りの風景にも変わりは無く、太陽が昇っていること以外には地平線が広がるのみ。太陽の動きで一応方位だけは把握した。


 あとは、そうだな。お腹空いた。


 以上。


 この状況から一番に優先すべきはやはり、スマホの充電がないことだろう。これが無くなれば、嫁とは永遠に会うことが出来なくなってしまう(=僕は死ぬ)。


 そう考えると、今のこの謎の状況とか今日のテストとかどうでもいい。早く家に帰る方法を考えるか、見つけなければ。


 とりあえずスマホの電源を落とした。これで暫くはあんし……心配だ。せめて予備バッテリーでもあればよかったのに。もし電源がつかなくなったら発狂してしまうかもしれない。流石にこの殺風景な景色の中での一人は寂しいし、早くお家に帰りたい。充電器が恋しいよ。


 さて、現状は理解出来た。とりあえず家に帰りたいわけだが、どの方角に進むのが正解か。


 とりま電波の届く場所に行きたいし、そうだなぁ。ご都合主義的な展開を期待して、真っ直ぐ北に進もうか。



 ◆◇◆◇◆



 やっぱ日本人たる者、黒髪ロング一択だよな〜。ツイテにポニテ、お団子や三つ編みなどなどetc……黒髪ロング、最高!


 気分は上々。鼻歌(アニソン)混じりに妄想を広げていた僕は、ふと我に帰り眼前の現実を突きつけられた。


 ……あれから三時間、全く風景が変わらないんだが。ここはあれか?異世界か何かか?


 と、そんなことを考え始めるほどに周りには何もなかった。


 あかん。この世界には僕以外に何もないんじゃないのだろうか?このまま死ぬとか嫌だぞ?とか考えたら、ちょっとした恐怖でチビリそうなった。嫁を見て英気を養いたい。


 でも、バッテリー無くなったら積みだし、けど、一人が本当に寂しくなってきたし。どうしたらええねん。


 いやいや、弱気になってはいけない。そう、ここはモンゴルの大草原。一切の轍や波のような凹凸すらなく、不自然なほどに整地されてはいるが、ここはモンゴルの大草原なのだ。そうだと信じよう。いや、そもそもなんで僕はモンゴルにいるんですかね?そこからして謎なんですが。


 そういえば動物や虫なんかも見てないぞ?


 おおぅ、悪寒が。いま、体がブルブルッ!?っとなんだぞ。ちょっと漏らす前にトイレ休憩をば。



 ◆◇◆◇◆



 あれからさらに三時間。


 太陽は真上を通過し、もしかしなくても進む方向が間違っていたのでは?と、今更ながらに後悔しつつも、スマホケース(嫁画)に話しかけ続けていた僕の目の前(地平線の彼方)には、町と呼べるレベルの家々が建ち並んでいた。


「おお!町だ!町が見えたよハニー!君のおかげだ!」


 と、そんなことを言いつつスマホケースにキスをする俺氏。その足取りは、とても軽やかだった。



 ◆◇◆◇◆



 たかが六時間にして頭がおかしくなっていた僕は目もおかしくなっていたようで、少しづつ近づいてきた町並みが、なんだかゴーストタウン的な感じのものに見えてしまう。


 外傷はなく、ただただ時間の流れによって腐れ落ちた家々には、蔦などが絡まり自然と一体化。突然生き物だけが消滅したようなこの町に、人が住んでいるとは思えなかった。


 いやいや、思えないだけで居るからね、人?うん、居るに決まってるよ……。


 町へと到着した僕は、マイハニーを胸に抱き、町の中を探索して回る。


 たっぷり2時間。時間をかけて町中を歩き回った結果、見事にゴーストタウンであった。


 思わず泣きそうになった。


 が、それと同時に良いものを見つけた。それは、町で1番大きな家から拝借した地図とお金、それからそれらを入れているこのポーチである。


 地図は、これ、どこの国の言葉だよ?って感じの見たことすら無いような字で地方や町の名前などが手書きで記載されていた。現在地は地図に書いてある赤い丸の位置だと思われ、ここから北北東に数時間歩いた距離に町があるようだ。


 お金に関しては、すまん。いま、所持金0なんだ。廃家からお金を盗んだことに関しては許してくれ。お願いします。モンゴルのお金がどんなのか知らなかったが、金色のコインと銀色のコイン、それから銅色のコインが存在するらしい。初めて見たわ。少し感動。


 それらを入れるポーチは、遡ること数世紀、中世くらいにありそうな革製品のトートバック的なやつで1番綺麗なものを拝借した。気分は異世界の旅人……纏、盗賊である。


「ハニー。こんな僕を嫌いにならないでおくれよ?」


 そうスマホケースに話しかけ、次の町を目指すのであった。



 ◆◇◆◇◆



 町を出て2時間。


「あだだだだ!!!」


 腹痛により、現在地べたに這い蹲っております。


「くそっ!あそこの井戸水、腐ってやがった!」


 飲まなければよかったな。と、深く後悔しております。嫁(スマホケース)を片手に、必死に排泄行為を耐える中。別に誰もいないんだし、出してもよくね?と、考える。


 いやいやいや、嫁がすぐそばで見てるから!そんな中で致すとか、ありえないから!


 その後肛門が攣り、危うく大惨事になりかけたがなんとか乗りき、僕は草原を駆け出した。



 ◆◇◆◇◆



 あれからどれ程走ったかわからない。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」


 息も絶え絶えで全力疾走をし続けていた。


 あかん!足を止めたらあかんで!さもないと漏れてまう!


 走って走って。とにかく走って腹痛と便意を紛らわす。


 ドッドッドッドッ!と、鳴り続ける心臓の音を全身で感じ、酸欠と発熱によりクラクラする頭はしかし、回し続けた足の痛みと腹痛と、それから降り続けた手の痛みで最高に冴えている。


 全身からは冷や汗なのか何なのかわからない汗がドバドバと流れ、喉はカラカラ。唇もカサカサしているし、ゲロも吐きそうだ。服が張り付いで気持ち悪い。


 今すぐにでも倒れたいのだが、その瞬間に人生終了。人間以下の存在になってしまう。せめて紙が。紙幣の一つでもあればトイレットペーパーの代わりに使えたものを。紙幣だけは全て持ち去られていたあの家を、僕は今、全力で怨んでいる。


 いいや、わかっている。これは逆怨みだと。だが、そう思わずにはいられない。いられないのだ!


 お!町発見!これまたゴーストタウン臭ハンパないが、何故か今は嬉しいぞ!


 ギリギリの精神状態では嫁に話しかける余裕もなく、只々汗塗れの手で握り締めるのみ。滑って落とさないようその握りは力強い。


 永遠のようで、一瞬に感じられたこの長距離走。そのゴールは近い。


 とか考えていたせいで漏れそう!すごく漏れそうだよ!緊張を解くにはまだ早過ぎた!くそぅ!


 町へと到着した瞬間に1番大きな家を血眼で探す。その目的は一つ、その家の本を掻っ払うこと。そして……以下略。


 もはや低姿勢となってしまった走りで、足が絡まり躓きそうになる中。その家はあった。


 前回の町では大きな家にしか本は置いていなかった。田舎だから紙が貴重なのだろう。それがまさかこんな所で負担になるとは。誰か本の普及をお願いします!


 おらっ!っとドアを蹴破り、ドタドタと家に上がり込み、一階を探し回った後、階段を使い二階へと。


 ーーー瞬間。


 階段の底が抜けた!


「うお!?」


 まじかよ!?っと思うと同時に綺麗に着地。


 あっぶね〜。とか考えていた時には今までの疲れがドッと全身を襲う。


 視界が歪み、頭はグラッと傾いた。倒れる!っと思った時にはもう遅い。バタン!と、埃まみれの床に崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ。はぁ、はぁ」


 埃を吸い込むのも構わず荒い呼吸を繰り返し、ピクリとも動かない体でスマホだけは握り締める。


 いま、この瞬間だけ治った腹痛には感謝するが、込み上げてきた吐き気を抑えきれずにゲロをぶちまけた。


 喉を苦い胃液が刺激する。


 体を動かさない僕は、顔に生暖かいものを感じながら激臭を肺へと送り込む。


 何故、こんなことになっているのか。色々と自業自得ではあるが、かなり泣ける。涙は流さないが、心はかなり傷ついた。



 ◆◇◆◇◆



 ブラックアウトしそうな視界を何とか紡ぎ、ようやく動くようになった体を起こして再び紙を探し始める。


 今度は慎重に登った階段の左側、その扉を開くと書庫を発見。その中から本を掴んでページを破り、顔を拭く。拭きながらも外へと歩き、家の裏側で用事を済ます。


 最悪の気分である。


 何故、井戸水を飲もうと思ったのか。寧ろ脱水状態なのだが。


「すぅーーーーっ。はぁーーーーー」


 大きく深呼吸して、気分を切り替える。


 うん。無理。


 そもそも何故こんなに苦労しているのか。それは何も分からない状態で草原に放り出されたから。意味わかんないよ。最初と明らかにテンション違うでしょ?最初はバリバリハイなテンションでオラオラツッコンでたからね?それが今ではこれよ。最初の三時間で素の自分出てるし、今となってはなに?愚痴言ってるだけじゃん。言ってはねーけど。


 ……はぁ。


 僕はスマホの電源を入れ、自分の世界へとトリップした。



 ◆◇◆◇◆



 それから暫く。


 気持ちが落ち着き、携帯の充電が79%に達した所で電源を落とした。


 よし。もう少しだけ、頑張ろう。


 といっても、現在。スマホの時間にして6時を少し回った所。だいぶ太陽も沈んできたし、今からの移動は無理だと思う。途中で日が暮れるのは嫌だし、草原のど真ん中で寝るよりは廃家の中で眠りたい。雨風はギリギリ防げそうだし。


 ただ、このまま何もしないというのは不安なので、日が沈む前に家を物色しつつこれからの予定でも考えて行こうと思う。


 そうと決まればさっそく移動開始。手始めに本を2冊ほど回収する為、二階へと向かいながら考える。


 明日の予定としてはとりあえず水が欲しい。井戸水には懲りたから、川か何かを明日は目指す。水抜きで明後日まで生きていける自信がないし。もし、魚が泳いでたらついでに食べたい。捕まえれるかはわからないけど、魚を捌く包丁かナイフ、後は火起こしに必要なマッチかライターもパクっておこうかな。


 他には……


 そんなこんなで家を物色し、手に入れられた物は本、短剣2本、地図、お金、革ベルト。


 革ベルトは鞘付きの短剣二つをぶら下げれるようにと用意してみたが、使う予定はない。


 さて。まずはこの家にもあった地図と、前に拝借した地図の二つを並べて見比べてみよう。それぞれの赤丸の位置からして、予定通りの町には到着しているようで、一安心。


 これで、太陽と影を使った方角の割り出しは間違っていなかったと証明された。そして、この地図に載っている川へと行くには北東に、前の町との距離を考えて……3時間ほど歩いた距離にあると。明日の行き先はここだな。


 近くには周りの町より大きい文字と絵柄で街が描かれているし、この街にも川の後に行ってみよう。


 川が干上がっていませんように。


 と、そんな事を祈りつつあることに気がついた。


 そういえば、モンゴルの大草原にこんな石材と木材をふんだんに使った中世の家みたいな建造物が建っていたりするのだろうか?僕のイメージとしては、テントみたいな家を張ってそこで暫く定住した後はまた移動する。って感じなんだけど、違うのかな?近代化の影響で変わったとか?


 いやいやいや。でも結局ゴーストタウンになってたら意味ないし。何故こんなとこに町作ったの?って感じだし。ていうか、町の人がいない理由ってなんなの?これだけの立派な家建てといて普通捨てる?まあ、不便ではあるけど畑作った後も家畜を飼っていた後もあったし……もしかして、水が干上がって住めなくなりました。とかじゃないよね?大丈夫?明日の川?いや、大丈夫だ。相手は川だぞ?舐めんなよ?


「……ふぅ」


 不安になってきた僕は溜息を吐いて思考をリセット。


 今日はかなり疲れた。明日は筋肉痛だろうし、喉もカラカラだ。早く寝て明日は早朝からの移動を開始しようかな。うん。


「おやすみ、マイハニー。明日もよろしくね」


 床に転がり目を閉じると、何も考えないようにして無理矢理眠りにつくのであった。



 

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