第一章 二節 それぞれの苦悩

夜ももうすぐ明け、街も流石に静まり返ってきた頃。未だに男と老年の男性、もとい酒場のマスターとの話しは続いていた。だが、話しといっても酒場のマスターが男の愚痴を延々と聞いているだけなのだが…。

「それで、久々に会った友人になんかいきなり『お前ってやっぱり冴えない顔してるよな。』って言われたんですよ。だから私って地味なんかな〜て最近思うんですよ。」

「確かにあなたは冴えない顔をしてますね。それでも私はあなただけの良さが他にあると思いますよ?」

「えっ?顔の事は肯定するんですか?」

「…」

「ちょっ、黙らないでくださいよ…。」

「いえ…流石に私も元からのもののフォローは難しいですから…。」

「いや、もう顔の事はいいんですよ!そんなことより、さっきから話を聞いてるだけのおっちゃんは何かないんですか?」

このままでは絶対に自分の評価が落ちていくだけだと思った男はたまらず話題を変えようとする。

「何か、ですか…。自分は特にはそういったことはないですが、強いて言うならハンター達の態度ですかね。」

「やっぱ、あいつらは相変わらずの感じですか…。」

ハンターとは、こことは違う別の国、魔獣の群生地帯にある闘政国家ストライグを中心に存在する魔獣を狩ることを生業にしている者たちとことだ。

基本的に店などで売っているものは肉は、ハンターが狩り、自分たちのいる商政国家ウルクで加工した魔獣の肉なのだが…。

「なんであいつらはこっちと対等な関係にあるはずなのに偉そうなんですかね?」

「きっと、なにか自分たちが上に立ちたいみたいなプライドがあるのですよ。」

ハンターは、とにかく気性の荒い者が集まっている。そのため、ハンターには礼儀の知らぬ者も多いのだ。

「自分たちも仕事は外の警備なんでハンターと会うこともしばしばあるんですけど…。やっぱりリリカとかダイナらへんが会うたびに機嫌悪くしてますね…。」

「それ、大丈夫なんですか?リリカさんはともかく、ダイナさんが機嫌悪くしたらハンターたちが燃えそうな気がするのですが…。」

酒場のマスターが心配そうにしながら、男に聞いた。

「ハハハ…。実際にそうなりそうだから私が毎晩しかめっ面で酒を飲んでるんですよ…。」

と、男は疲れ切った顔で言った。

そう、男が死んだ目で一人、酒を飲んでいた理由は彼が所属している都市防衛部隊の国境警備部隊第5小隊の隊員たちにあるのだ。男は第5小隊の隊長なので、毎日凶暴な隊員たちを抑え込む必要があるのだ。まだ…隊長に昇進したときは希望で胸がいっぱいだった筈なのに…。

「なんで自分は昇進してからの方が苦労してるんですかね。同期は良い後輩に囲まれている中…なんで自分だけ…。」

「それでも同期の中では一番に昇進しているのでしょう?それにもう小隊の中では五番目に位置しているのですから、それだけでも凄いことですよ。」

「いや、違うんですよ。自分でいうのもなんですけど、それは周りの反応からもわかってるんです。同期のやつからも前に言われました。けど私が言いたいのは自分の置かれている環境のことなんです。」

「自分の隊員たちに問題はあるが、それ以上に隊員たちが有能なので切り捨てがたいと?」

「まあ、そんな感じです…ね…?」

と、自分の仕事の話をして、男はあることに気づく。

「おっちゃん…今日って十九日で会ってます?」

「はい。そうですが…あっ…。」

どうやら、酒場のマスターもそこまで言って気づいたようだ。そう、今日十一月十九日は、

「なんで朝まで飲むとかしたんだ俺!今日は…仕事日じゃねぇかぁ"あ"あ"あ"!!」


やらかした男の絶叫が街に響き、街に朝を知らせたのだった。


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