Teenager's High〔take3〕

岩井喬

第1話【プロローグ】

【プロローグ】


 俺は大人を許さない。

 俺の両親を殺し、俺の心を踏みにじり、そしていざという時は、平気で俺を置き去りにする。そんな奴らを、どうして許せるものか。


 もちろん、世の中はそんな大人ばかりではないのだろう。子供に衣服を着せ、食事を摂らせ、住む家を与える。それが人間の営みであり、そんな基本ができていない大人の方が少数派なのかもしれない。


 だが、俺の周囲の大人たちは『少数派』だった。俺の両親は殺され、俺の心の傷口はえぐられ、そして俺自身は放り捨てられた。まるで元から、俺や両親が存在していなかったかのように。


 そんな奴らを罰する法はない。この世界には、まだ。

 法に触れ、罰せられる連中もいるが、そいつらに対してもこの国は甘すぎる。


 大人は、金と力で動く。そんな薄っぺらい連中は信用できないし、したくもない。共闘するなど以ての外だ。

 俺は信じない。どんな治安維持組織も、きっと叩けば埃が出る。だから俺は、今はフリーランスに近いこの組織に属している。警視庁にも警察庁にも防衛省にも左右されない、確固たる意志を持った仲間たちと共に。


 ここはマシだ。治安維持組織に属するよりは、きっと。

 やっている『仕事』の内容からして、居心地がいいとは言えない。しかし、他にやるべきことはない。両親、すなわちたった二人の肉親らしい肉親を喪った俺には。


 そこまでして、俺のやっていること。それは、一言で言えば殺人だ。それも、世にいう大量殺人。

 大量殺人と言っても、見境なく大人たちを殺すわけではない。俺が殺意を覚えるのは、飽くまでも『少数派』の連中だからだ。無関係の人間を巻き込むのには、多大な拒絶感と罪悪感を覚える。それをやってしまったら、俺の両親を殺した連中と同じ思考回路を持っていると言われても仕方がない。


 しかし、相手がその大量殺人犯、あるいはそれに組する連中だったとしたら? 他者を殺傷することを何とも思わない、人間に非ざる怪物だったとしたら? 第二、第三の俺のような少年少女が現れるのを座して見ていられるほど、俺は大人でもないし子供でもない。


 それが、佐山潤一という人間だ。強烈な暴力によって両親を奪われたがために、復讐鬼を自称するようになったティーンエイジャー。それ以上でも、それ以下でもない。

 この文言以外に自身を定義する術を、少なくとも俺は知らない。その必要もない。俺はただ、復讐のためのマシンとして機能し、犯罪者共の息の根を止めていくだけだ。


 誰に肩を貸してもらう必要もない。慈悲も憐れみも同情もいらない。ただ、仲間たちがいればいい。そして援護してくれればいい。

 まあ、そう言い切るには、まだまだ人間味が残りすぎているのではないかとは時々思う。仲間たちと一緒にいる時は、自分の子供らしさが顔を出すのも実感させられる。


 だが、作戦中は別だ。人を殺める瞬間に、子供らしさも大人っぽさもあったものではない。ただ一点、いかに冷静でいられるか。それだけが重要事項だ。


 長々と語ってしまったが、無理やりまとめるとすれば、この一文に俺たちの生き様が現れていると思う。


 我々は、テロリストを狩るテロリストだ。


 さて、時間だ。俺は何の躊躇もなく、目の前の錆びた扉を蹴破り、拳銃を前面に突き出した。慌てて振り返る『敵』の姿を捉え、引き金を引こうと指先に力を込める。予想外の出来事が起きたのは、その時だった。

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