第40話 エルフ、涙する。

 

「はぁ……疲れた」


四時限目の授業が終わりを告げるチャイムと同時に空気が抜けるかのように机にと項垂れた。


この姿になってから色々な視線や注目は浴びるのには多少慣れたと自負していたものの、こんなに熱い視線を背中に感じるようなことは初めてだった。

一応誰だと思いその視線を追ってみたものの、案の定南さんで間違いはなかった。


しかもそれは休み時間や最初のホームルーム以外の時にもよく感じることがあった。 

この人明らかに授業聞いてないだろってくらい見つめられてた気がする。

でもしっかり当てられたやつは答えられていたので、頭の方は他の人と比べて頭抜けて良いのだろう。

逆に俺の方は当てられたら全部外すくらい集中できてなかったが。


まあいい。今日は入学してから間もないのもあって、午前中で授業が終了になっている。これ以上目立つ前に速やかに退散するとしよう。


周りを確認し、誰も俺を見てないことを確認(結構見られている)、ゆっくりと忍び足で退散、そして教室を出たらダッシュで行こう。そう決めて教室のドアを開けてダッシュし掛けた時だった。

俺は柔らかい何かとぶつかり、強制的に教室へと押し戻された。そしてそのまま倒れるかと思っていたら、キャッチしてくれた何者かによって尻餅することは免れたようだった。


「痛ててぇ……」

「あ、姫咲さーんかぁ、いきなりドア開いて突っ込んできたからびっくりしたよー、それより大丈夫?一応姫咲さんに比べたら全然だけど、多少の衝撃は抑えられたはず、たぶん?」


「あ、はい、ありがとうございます……?」


「あ、名前分からないかー」

「はい、すいません……」

「いや、いいよ、私はあなたと同じクラスの町田 胡桃よ?よろしくね?」

「あ、はい、よろしくお願いします」


なんとか冷静に返事を返したものの、俺の心の中は「南さんに話しかけられる前に帰りたい!」その一つでいっぱいだった。


「あのー、では私はこれで……」

「あっ、ちょっと待って!」

「はい?」


俺が足早に教室を後にしようした時、再びこの町田さんという子に呼び止められた。


「この後クラスの女子たちでカラオケとかゲーセンとか回ろうって話があるんだけど、姫咲さんも一緒にどう?」


『是非とも遠慮させていただきます』こうきっぱり断れたらなんていいことだろうか。

この姿になってからカラオケとか行ったことがないからどんな歌声になるか確かめてみたいというちょっとした気持ちは心の片隅にあるものの、大勢の女子の前で大々的に歌うのは気が引ける。

それに男の時は別に音痴でもなくそれなりに上手く歌えてはいたものの、この姿になってめちゃくちゃ音痴になってるかもしれないし。


よし、勇気を持って断ろう。


「あの……私はーーー」

「姫咲さんこの後用事とかあるの?」

「いや特にはないです……」

「じゃあ、一緒にいこ!」

「はい……」


うん、案の定断れなかったよ。


俺は心の中で涙した。

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