第32話 撮影後。


スタジオで撮影、そのお疲れ様会としてちょっとしたパーティーをした後。俺たちはオーナーさんと堀江さんにさよならの挨拶を交わし、再び道を歩いていた。時間も結構経っていたため、撮影前に起こした騒動も、水の泡のように弾けて無くなったかのようだ。

未玖に関しては、さっきまでお酒を飲んでたのが嘘みたいだ。

しかし、時刻は既にお昼を回っていて、俺たちが買い物をした時よりも賑わいを見せている。


「そういえば、お腹空いたねー?」

「そうね。さっき少し飲み物と菓子を摘んだけど、お昼はまだだったわね。私、朝も食べてないから何か食べたいわ。エルもいい?」


確かに俺もお腹が少し空いていた。そのため、俺もその意見に賛同する事にした。


「じゃあ何食べる?」


そう姉さんが問いかけると、未玖は遠慮なく「ステーキ!」と元気に声に出した。因みに俺もステーキは大好きだ。それもハンバーグと同等くらいに。

そのため、「じゃあ、俺もそれで」と賛同する事にした。しかし、姉さんが賛同することはなく、何かを言いたげにしていた。


「姉さんは嫌なのか?」

「うんん、私は大丈夫だけど。えーくんは大丈夫なのかな?って」

「えっ、俺?俺は大丈夫だけど。てか姉さん、俺が昔から肉料理が大好きなのは知ってるだろ?」

「うん、それは知ってるけど……エルフになってからは好みが変わったんじゃなかったっけ?それでお肉が苦手になったとか言ってたよ?」

「あっ、そうだった……」


そういえば忘れていた。俺はエルフになってから肉料理ではなく、野菜や果物の方が好ましくなっていた。

その中でも果物類は特に好きだ。

思えば、スタジオで摘んでいたものも、籠に置かれていた蜜柑が多かった気がした。


「悪い未玖、俺のせいでステーキ食べたいっていう要望叶えられそうにない」


そう未玖に謝ると、未玖は俺のせいで怒らせてしまったのか、そっぽを向いてしまった。

それを見た姉さんも、助け船として間に入ってくれた。


「あのね未玖、えーくんも意地悪で嫌だって言ったわけじゃないよ?」

「そんなの知ってるわ」


未玖はそう言うと、一人で歩道を歩き始めてしまった。しかし、未玖は数歩進むとその歩みを止め、振り返って言った。


「お姉ちゃんもエルも何してるの?早く行くわよ」

「えっ、でも……」

「ファミレスだったら三人とも食べれるものあるでしょ。近くにも有るみたいだし」

「未玖……」

「なっ、何よ?」

「愛してるぞ!」


俺は未玖の気遣いに感激し、感謝の意味も込めて未玖に抱きついた。すると、未玖は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「べ、別に!?エルのためじゃないわよ?!私がそこがいいだけで!!」

「そういうツンデレのとこも好きだぞ!」


そう言うと、未玖はさらに顔を赤らめ、頭からは湯気が出ていた。

そして、そんな俺と未玖を見て姉さんは微笑ましそうに笑っていた。

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