第25話 エルフ、撮影のモデルをする。
暫くしてカオスな状況が収まると。近くの椅子で放心しているオーナーさんは別として、撮影する準備を始めた。
ま、俺と姉さんはこういうのにはからっきしなため、ただ堀江さんが準備しているところを見ているだけだが。因みに未玖はというと、今後の為にと言って堀江さんを手伝っている。
そして撮影の準備も終えたころ。
さすがにお仕事とあってか、撮影が始まろうという時には、オーナーさんは息を吹き返していた。
さすがにアルバイトの堀江さんに全部をやらせることはさせないようだ。
「じゃあエル、撮影するわよ」
「え?あ、うん。俺は何をすればいいんだ?」
「何をって……エルがモデルなんだからエルがあっちに行かなきゃ始まらないでしょ?」
「えっ、俺がモデルやるの……?」
「当たり前でしょ。どうせ一人暮らし始めてもバイトもろくにしてないでしょ。こんな時くらいただ働きしなさいよ」
「うぐっ!」
本当の事だから何も言い返す事が出来ない。プラス、これ以上逆らうともっと過酷な要求をされかねないため、あえてここで従うことにした。
「それにしてもただ働きかよ。超ブラック企業よりも酷い待遇だな」
「あら?でもそんなブラック企業とは違って撮影するだけよ?一緒にしないで頂戴。ほら、全国のブラック企業さんに謝って」
「いや、話の例えだからな!?しかもブラックがダメって言ってるのにブラックなことを謝って認めたらダメだろ!?」
「まあ、そんな事はいっそどうでもいいわ。この後も予定詰まってるし、早くスタンバイしなさいよ」
「いや、良くはないからな?面倒だからもうツッコまないけどさ」
「そうしてくれると助かるわ」
俺は平然としている未玖に苦笑いしながらも、未玖に言われた通りの場所にスタンバイした。
「これで大丈夫なのか?」
「はい!大丈夫です!では私が軽く化粧させていただきます!」
堀江さんが化粧するための何かを手に持った。俺には良く分からん。知ってて口紅くらいか。
「あと、化粧するのに邪魔なので、帽子一旦外させてもらいますね?」
「あっ、それはっ」
しかし、時は既に遅かった。俺が帽子を手で押さえようとした時には、堀江さんに帽子がすでに外されていた。
結果、耳を隠すために深く被っていた帽子が取られたことによって、俺の耳が露わになった。そしてあまり目立たないために帽子の中に入れていた艶の良い金髪も同時に露わになった。
「……」
そして少し離れたところにいたオーナーさんもそれに気づき、口をぽかんと開けて驚きを隠せていない。隣いる未玖は「あちゃー」という顔をしている。
黙りこくった時間が暫く続くと、ようやく堀江さんの意識が戻ったようだ。
「あ、あの、その耳と髪は本物、ですか……?」
「まあ、一応?」
「そ、そうですか。分かりました」
よしっ。これでこの場は何とか上手くいったみたいだ。
俺はさり気なく帽子を拾い、被り直した。
「じゃあ、撮影始めましょうか」
「いや、無かった事にしないでくださいよ!!」
「ですよねぇ……」
結局、俺の身に何が起きたかを話さなければならなくなりそうだ。
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