第8話 エルフ、姉に信じてもらおうと頑張る。だがしかし、姉のほうは俺のことを弄んでいます。

そして視点は俺へと戻る。


姉の詩織は、俺の姿を見て目を見開くほど驚いてる。まあ、弟がこんな姿になってたらそれは驚くわなぁ。

弁明しなければっ。


「姉さん、これはかくかくしかじかで……」


だが姉さんは驚くどころか、下を向いて黙ってしまった。


やばいっ、何かしくじってしまったか!?


「あの姉さん、大丈……」

「詩織お姉ちゃん……」

「姉さん……?」

「詩織お姉ちゃんって呼んでっ!!」

「ふえっ!?」


どうしたんだ姉さん?頭がおかしくなったのか?


「お願いっ!詩織お姉ちゃんってっ!」

「はぁ……分かったから。言うから……」


言えばいいんだろ、言えば。


「ーーねぇちゃん」

「うん?聞こえないよぉ〜?」

「詩織お姉ちゃん!!」

「はーい、あなたの詩織お姉ちゃんですよー!!よしよーし」


姉さんに抱きつかれ、俺の顔は姉さんの豊かな胸に埋まってしまった。


く、苦しいけど柔らかい!!


が、俺はMではないため、この柔らかさよりも苦しいさのほうが強い。


「姉さん離してっ、苦しいっ!」

「詩織お姉ちゃんでしょ?」

「し、詩織お姉ちゃん離してっ!」


すると、姉さんは「はーい」と言ってすんなり俺のことを離してくれた。


「ところでえーくんはどこかしら?」

「今頃気づいたのかよ!!」

「だって、目の前に可愛い子がいたら先に愛でるのが当たり前だと思う……よ?」

「よ?じゃねーよ!!普通、自分の弟の部屋に知らない奴が居たら警戒するだろ!?」

「可愛いから警戒するわけないもーん」

「そんなわけっ!ーーーーあるかもしれない……」


確かにな。可愛い女の子が俺の部屋にいても警戒しないかもしれない。


「って、そんなことよりっ!俺がし、詩織お姉ちゃんの弟なんだ!」

「ふえっ?君がえーくん?」

「そうだよ。なんか悪いか?」

「悪いも何も、えーくんは男の子だよ?しかも引きこもりだし、君みたいな可愛い女の子とは無縁の存在だよ?」

「悪かったな!引きこもりで女の子と無縁で」

「何で君が謝るの?」

「だから、俺がえーくんだからだよ!!」

「ふえっ?君がえーくん?」

「はぁ……話が進まない……」


話が進まないし、無意識だろうけど俺のことをディスるわ。この姉、本当に俺のこと大事な弟だと思っているのか?


そう思っていると、姉さんは、何か良いことでも思い付いたのか、手をポンと叩いて話し出した。


「じゃあ、君がえーくんだって信じて欲しいなら、えーくんのこと質問しても答えられるよね?」

「えっ?うん」

「だから私から質問するから君が答えてね。全部答えられたら君がえーくんってことを信じてあげる」

「分かった」


分かったんだが、何か嫌な予感がしなくもない……


「じゃあ質問は全部で三つだよ?それでは第一問。ででんっ。えーくんの誕生日はいつでしょう?」


そんなもの簡単だ。


「一月十一日だな」

「おおー、正解!すごいねぇ?」


「すごいねぇ」って。俺の誕生日だし当然当てられるに決まっているじゃないか。


「では第二問。チャラんっ。家に住んでいた時のえーくんのベッドの下にあるエッチな本のタイトルは何でしょう?」

「なっ!?」

「うふふっ、答えられるかなぁ?」


答えられる答えられないとかの前提の前に、俺のベッドの下になんか何も隠してなんか無いぞ?

これも簡単じゃないか。


「答えは、何も隠してないだ!」

「ファイナルアンサー?」

「ああ、ファイナルアンサーだ!」

「じゃあ、正解を発表します。正解は……じゃがじゃがじゃんっ!何も隠してないでした!すごいねぇ君。二問目も正解だよ!」

「当然だ、俺の問題だからなっ!」

「因みに、えーくんの鍵がかけられてる引き出しの中には『女の子にモテる十の方法』っていう本が隠してあるんだよ?」

「な、何でそれをっ!?」

「お姉ちゃんに隠し事はできないんだよ?弟くんは覚えといたほうがいいかもしれないね?」

「そういう問題じゃないっ!それじゃあ俺のプライバシーが守れてない……って、俺がえーくんだって分かってるじゃないか!!」

「ふぇ?何のことでしょうか?」

「この人露骨に誤魔化したぞ!?」

「では、ラストの問題いこー!」

「話をそらすな!!」


全く。このダメ姉め、最初から分かってて質問したな?

まあいい。後でやり返すとしよう。


「最後の問題!チャラんっ!えーくんが将来結婚すると誓った人は誰でしょう?」


こんなのが最終問題か?簡単じゃないか。答えは「そんな人いない」だ。なんだ、結構すんなり終わったな。


「正解は、そんな人いなーーーー待てよ?」


思い刺さる所がある。それは俺が引きこもった理由にも関係する。


俺は中学生の時、虐められていたというより、弄ばれていた。その理由とは何か。

それは、「俺は姉さんと結婚するんだ!!」と叫んでいたからだ。


中学生の中盤くらいまでは、真面目に姉さんと結婚すると考えていたため、授業の一環での未来家系図でも姉と結婚すると書いていたし、先生にもそう話していた。


たぶん、それでみんな思ったのだろう。

「こいつ、やばい奴(重度のシスコン)だ」と。

それから徐々に外の世界から離れていき、引きこもりの今に至る。


てことは、この姉は、俺の黒歴史を使って問題を出してきているということになる。

今思う。この姉、ゲスすぎではなかろうか。

しかも、引きこもりとはいえ俺だって二十一歳。

この歳にもなり、あんな問題の答えを堂々と言えるのだろうか?答えは否だ。言えはしない。

そのため、新たな解決策を見つけるために無言を貫いた。


「もういいのかなぁ?無言っていうことは分からないってことで?」

「い、いや、答えるので待ってください……」


くっ、別の回答が見つからない……もう仕方がない。信じてもらうためには答えなきゃならないんだ!

プライドを捨てろ!俺!


「し、詩織……詩織お姉ちゃんでしゅ……」

「正解っ!!えーくん大好き!!」

「ふにゃ!?」


姉さんは俺に抱きついた。嬉しそうでなりよりだ。

だが、俺のほうというとーーーー


信用を得た代わりに、男としての尊厳が失われたのだった。(もう女だけど……)


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