俺は不死身の体で何度でも生き返る。
うずはし
01 俺が欲しいのは不死身の体
「お、俺は……死ぬなんて……いやだ! 絶対死にたくない!!」
俺の胸に刺された包丁のような刃物。激しい痛みと苦しみが襲い掛かる。
そして何よりもこの刃物……。
間違いなく心臓を貫いている。
そのせいでありえないほどの血液を路面一帯にまき散らしていた。
口と鼻からも血液を噴き出す。く、苦しい。
自らの血の海に跪き、倒れ込む俺の体。
視界がかすみ、薄れていく意識の中で俺は強く思う。
――――絶対、死んでたまるか。
どうしょうもないこの状況だからこそ、俺の欲望は強さを増していた。
俺の人生の中で、この瞬間が一番不死身の体を欲しいと思ったのだ。
死んでしまうという恐怖よりも、自分の欲望を最優先に考えてしまうなんて。
俺はどうかしているのだろうか?
◇◆◇
俺の名前は
世間からは引きこもりの無職な息子と白い目で見られているようで、それについて両親からも再三嫌味を言われている。
それは、ものの見方、言い方次第だと思っているから、俺はあまり気にしないようにしている。
そんな俺は、無気力で世間の情勢などどうでもいいと考えている奴だが、一つだけ欲しいと願っているものがある。それは……、
不死身の体。死なない肉体。
物心がつく幼少のころから現在に至るまで、その考えは俺の脳から消えることは無い。むしろ歳を重ねるにつれて、欲望は強くなっていった。
生きとし生けるものは必ず死を迎える。
老衰して迎える死。病気やウィルスに侵されてしまう死。誰かの悪意によって殺される死。
誰しも生まれた瞬間から、死へ向かっていると言っても過言ではない。
当然、その運命に抗う人たちが居る。俺もそのうちの一人だ。
先人の研究者達や欲深い金持ち共は、不老不死を欲していた者が大半だろう。
不老不死を手に入れる為に、秘薬の開発や黒魔術の使用、化学が発達した現代は、自らの体をサイボーグへと改造したなんて話も……。
しかし、どれも成功したなんて聞いたことが無かった。
理想なら、鋼のように固い肉体で完全無敵っぽいのであればありがたい。が、それはそれで普段の生活に支障がでそうだ。見た目で、あいつ人間じゃないってバレそうだし。
物理的な矛盾を考慮すれば、そこまでの贅沢は望まない。もっとスマートに生きたいからね。
腕を切り落とされようが、心臓を貫かれようが、首を切り落とされようが、トレーラーでぺしゃんこに潰されようが、瞬時に元通りに復活する。
まあ、これもかなり現実社会では矛盾が発生しそうだが、俺の理想はそういう所にある。
とどのつまり、要は死ななければ良いのだ。
不死身の体は欲しいが、現実がそれに伴っていない。
そんな心の葛藤があり、今の怠惰な俺が出来上がっているのだ。
今日は久しぶりの外出。
引き籠りの俺だって、ずっと家の中に居る訳じゃない。たまに外の空気を吸ってみたくなる。
今日は朝から気分がよかった。テレビの星座占いで一位、運命的なステキ出会いがあるかも! だって。
たまには人ごみの中を散策してみようかと、原宿辺りに繰り出した。
天気もいいし、気分転換には丁度いい。
鼻歌交じりに歩く。
そこで俺を待っていたのは――、
トン!!
ながらスマホに夢中の少年がぶつかってきた。
でも俺は怒らない。だって、こんなにも気持ちのいい日を台無しにしたくないから。
だから俺は、少年に優しく注意しただけ。歩きながらのスマホは危ないよ、と、優しくね。
目の前の少年はコクリと頷くと、ゆらりと体を寄せてきた。そして――――、
「――――えっ!!」
目の前の少年が、俺の心臓めがけて刃物を突き立ててきたのだ。
「……うざいんだよ」とぎらついた目で呟く少年。
とっさの出来事に、俺は避ける間もなく刃物の餌食に。
最悪な事に刃先は俺の心臓を貫いてしまった。
「――――ッ! ちょっ、君待――」
「わ、わ、わあぁぁあーーーー」
刺した少年は、青ざめた顔をして逃走してしまう。
お、お前! こんな事しといて逃げるのかよ、ふざけんな。
「ちょ、ちょっと、きゅ、救急車……た、たすけて、誰か」
辺りは一面血の海。その海で俺は力なく倒れ込む。
人々は俺を避けるように、取り囲んでいる。
かすんだ視界には、悲鳴をあげる女性や顔を強張らせながら青ざめている野次馬たちが。
スマホで写真を撮ってる奴らも。悪趣味な奴らめ。
「だ、誰か……たす……け……て」
俺は、少年にちょっとだけ注意しただけなのに。
それが、まさか逆上されて、こんな目に合うなんて。
最悪だ。ついてないよな、全く。
街の中心部で発生した障害事件。俺を取り囲む黒山の人だかり。
AEDで必死に蘇生しようとしてくれる人たちが居る。
遠くからパトカーのサイレンも聞こえてきた。
俺も、こんなところで死ぬわけにはいかない。
だって、俺にはまだ叶えていない野望がある。
そして、なにより、一番欲しい不死身の体を手に入れていない。
畜生! 俺はこんなみじめな最期なんて望んでなどいない。
だが、どう抗おうと確実に死は迫っていた。
死神は、もうそこまで来ている。
脈は止まり、呼吸も止まり、意識も無くなっていく。
そして……、
――――ついに俺は、死んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます