注文の多い火星移住

金星人

第1話

20XX年。

先進国の少子高齢化に勝って人口がますます増えていた。その為地球以外の惑星移住を現実的なものとして考えられるようになってきたのは当然と言えよう。いよいよ科学技術的に困難な面が解決されていくと、政府から発表があった。

「我々の母星は地球だけではありません。火星が第2の母なる大地となるのです!これは夢物語なではありません。科学の進展により可能となったのです。

あと必要なものは全て皆さん一人一人が持つパイオニア精神だけです。」

それから間もなくして各家庭に火星移住への招待に関する郵便物が送られた。勿論、この家庭にも。

「ねぇ、あなた。いよいよ来たわよ。こういうの好きだったわよね?応募してみる?」

「んー。第一便っていうのはさすがに怖いな。そんなに急がなくてもいいのじゃないか。」

ここに夫婦が暮らしていた。2年前に結婚した二人の間にはまだ子供はいなかったが、夫は中々の企業に就職できた為、お金には困ることはなかった。

「興味をそそられる話だが今回は止めておこうよ。」

やはり最初、というのは誰でも怖いもの。そうしてこの家庭含め多くの人が第一便を見送った。しかし、世間には起業家のような人たちもいるわけで、やがてテレビで最初に火星へ移住した人たちの映像が流れた。

彼らは所謂宇宙服を来て赤い土地の上を楽しそうに飛び回っていた。一人がカメラマンの側によって来てヘルメットの太陽光線遮蔽板をオフにすると満面の笑みで

「火星最高!!」

と無線マイクごしに叫んでいた。

あちらでは昼過ぎなのだろうか、居住ユニットには個人の家庭スペース以外に図書館やカフェといった娯楽のコーナーが設けられており何人かが火星の時間をゆったりとくつろいでいるのが見られた。

とても心地よさそうだった。窒素酸化物が舞い、一年中蒸し暑く、うじゃうじゃと人がいる地球では感じることのできない時が火星に流れている。映像を見るだけでも明らかだった。

「火星、いいなぁ…。」

その呟きをどこかで聞いていたかのようなタイミングで郵便受けに書類が入れられる。

もうだい第10便の応募なのか。

あんな番組見せられたら皆行きたくなるわよ。もう行ってみましょうよ。

お前の方が乗り気だな。でも確かにいいな。ダメもとで応募してみるか。なになに?ここのQRコードを読み取れば良いのか。それでそれで…

サイトにとぶと応募の入力欄があり、必要事項を埋めて最後に送信を押せば良いらしい。必要事項といっても家族の国民管理番号のみ。

「随分とシンプルだなぁ。」

「それぐらい火星が"近く"なったってことじゃない?実際、それくらい手軽じゃなきゃまだまだ整備できてない感じがして怖いじゃない。」

送信が終わると来月の中旬ごろに当選した家庭には郵便が届くらしい。

「待ち遠しいなぁ。」

1ヶ月が経ち届いていた郵便物を見ると期待の郵便が入っていた。中身を見ると

見事当選。

手紙には色々と書かれていたが特に驚きなのが手ぶらで会場にご参加下さいとのこと。

「本当に気軽に行けるのね。ついこの間まで火星はSFにしか出てこなかったのに。科学の進歩は凄いわね。」

「全くだ。本当に信じられん。まぁ、でも政府のプロジェクトなんだし、そんなに怪しむものでは無いだろう。」

当日その会場に行って二人は唖然とした。

「ほんとにここなの?」

「いやぁ、間違ってはいないはずなのだが…。」

「だって火星に行くには随分とこじんまりとした建物よ。宇宙船だって見当たらないし。本当にここであってるんでしょうね?」

「だから俺は間違えてないって。ちゃんとサイトのマップ通りだよ。そんなに疑うなら自分でも調べれば良いじゃないか。」

確かに妻が疑うのも不思議ではなかった。二人とも火星に行くからにはさぞかし立派な発射台と宇宙船を想像していた。来てみるとしかし、そんなものはなく、どこにでもありそうな3階建てのビル。そして入り口には模造紙に油性のマジックで


火星移住ご案内場


とだけ、何かの資格試験の会場であるかのように書かれていた。私もこの素っ気なさに疑いの念を抱かざるを得なかった。だが、確かに地図通りに来たのことに間違いはないのだ。

しばらく入り口の前でもめていると中から1人の案内人が出てきた。

「第10便に当選されたかたですね?ようこそいらっしゃいました。やはり驚かれたでしょう。火星に行くには随分と小さな建物だって。ですが心配入りません。さ、中に入って。」

「はぁ。」

入り口が開き、中に通されるとまた彼の説明が続く。

「皆さんねぇ、そうおっしゃられますよ。こんなところからほんとに火星に行けるのか?って。でも今どき、どでかい飛行機をつくって何百人しか乗せずに何往復も飛ばすなんて、そんな時間も金もかかるやり方しませんよ。将来的には億単位で人を移住させる計画ですからね。」

「それなら、どうやって行くのかしら。まさか、テレポーテーションとか?」

「まぁ、簡単にいってしまえばそんなところです。全てを、ではありませんがね。そもそも何をもってすれば火星に行ったことになるかということですよ。」

「は?」

「あ、いやいや、こっちの技術的な問題です。さぁ、部屋に着きました。ここからは左の部屋が男、右の部屋は女に別れてもらいます。なぁに、直ぐにすむ準備ですよ。転送後また火星で会えますから。」

「じゃあ、ここでお別れね。火星でね。」

「あぁ。」

男は妻が部屋へ進んでいくのを見届けた。そして案内人に

「では、行ってきま…」

…一声かけようと後ろを振り返ったのだがいつの間にかいなくなっていた。

いついなくなったのだろう。よく出来たホログラムだったのだろうか。

考えたところでよくは分からない。

男はドアが開いた部屋へと進んだ。


この後起こることを気にかけることもなく___。

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