サキュバス・キューピッド~淫夢で恋愛成就!?
シモルカー
序:淫夢から始まる恋!?
これは、恋の物語――。
*
むかしむかし、「リリン」という悪戯な天使がいました。
東に行けば、紳士に化けて淑女をたぶらかし――、南に行けば、美女に化けて青年を誘惑した。
人間は皆、天使に虜となり――人と愛し合う事をやめてしまいました。
困った神様は、リリンに罰を与え、地獄へ落してしまいました。
地獄へ堕ちた後も好き放題して過ごしたリリンは、やがて地獄からも追放され――行き場を失ってしまいました。
そんなリリンを哀れに思った神様が、一つだけ堕天使と約束をしました。
『お前が自らの行いを悔い改め、己のが罪を自らの行いをもって全て清算する事ができたら、もう一度天界にお前を戻しましょう』
リリンは、二つ返事で神様に誓いを立てました。
『イエス、ゴッド。私はかつて人々から愛し合う機会を奪ってしまいました。よって、私は自らの行いをもって、人々が愛し合う手助けをしていきます。人間たちの……恋のキューピッドになる事をここに約束します』
かくして――
かつて人をたぶらかし、恋路を邪魔した天使は、恋のキューピッドとなりました。
*
これは――恋の物語。
天使にして堕天使にして、サキュバスにしてインキュバスな淫魔――リリンが、人の恋を成就させる物語。
*
淫魔。
「夢魔」ともいう。
夢の中で、愛を育む夢を見せる悪魔。
人間の男の元には女性型のサキュバスが現れ、種を吸い取り――
人間の女の元には男性型のインキュバスが現れ、種を注ぐ。
また一説では――
*
「……あっ……ん……っ」
彼女の甘い声が、麻薬のように僕を侵す。
僕は今、とてもいけない事をしている。
血が繋がっていないとはいえ、小さい頃から一緒に過ごしてきた、姉のような彼女に、こんな事――許されるわけがない。
だけど、今この時だけは――きっと許される。
だって、これは夢なのだから。
「いいの……我慢しないで……ねえ? ユウ君」
どこか熱を孕んだ瞳で僕を見つめた彼女は、最後のタガを外すように、両手で僕を頬に触れた。そして、一気に引き寄せ――囁いた。
「好きにして、いいのよ……だって、これは……君の夢なんだから」
その一言が、ギリギリで繋ぎ止めていた最後の糸を断ち切ってしまった。
僕の中の欲望が、彼女の中で幾度となく弾け飛んだ。
互いの存在を確かめ合うように、きつく抱き締め合い――蠢く熱は冷める事を知れない。
「お姉ちゃん……好き……本当は、ずっと、お姉ちゃんの事、好きだった! お姉ちゃんにとって、僕は子どもで、きっと相手にされないって諦めていたけど……やっぱり、好きだ! 愛している!」
「あ……ふっ……はあんっ! 私もよ……君の事が……」
奥深くで眠っていた欲を、彼女の声が、熱が、何度も呼び覚ます。
やがて意識が飛び始めた頃――彼女は、妖艶な笑みを浮かべた。
その横顔に、一瞬違和感を覚えた。
――お姉ちゃんって、あんな顔して笑ったっけか?
――でも、まあ、いいか。だって、これは……夢なんだから。
*
すごく恥ずかしい夢を見た。
僕はいつも通り目を覚ますと、夢の内容を思い出し、一人で赤面した。
――夢なんだから照れてもしょうがないけど。
まさか、あんな夢を見るなんて。
しかも、相手は近所に住んでいるお姉さんだなんて。
彼女とは幼馴染みで、血は繋がっていなくても、僕にとっては本当の姉のような存在だ。
小さい頃はよく遊んだりしたが、僕が中学生になってからは疎遠になり、最近は挨拶程度だ。
――そういえば、最後にゆっくり話したのっていつだっけか?
僕は高校生で、お姉ちゃんは近所の大学の事務員。彼女が就職して、僕も高校生活が忙しくて、会う機会もめっきり減ったな。
そんな彼女で、あんな夢。
――ああ、どんな顔して会えばいいんだろう……。
「だけど、いい夢だったな。最初は半信半疑だったけど、このサイト、本物かもしれない」
手元のスマートフォンを操作し、昨夜寝る前に見たウェブページに飛ぶが――そこは「存在しないページです」とだけ書かれていた。
――あれ? 昨日は見れた気がしたんだけど……あれも夢だったのかな。
僕がそんな事を考えて外に出ると、ちょうどお姉さんが立っていた。
「お、お姉ちゃん?」
僕の姿を見ると、お姉さんはあからさまな態度で顔を真っ赤にした。
「あ、えっと、お、おはよう?」
とてもぎこちない態度で彼女は言う。その視線は泳いでおり、時折目が合うと、やはり頬を紅く染めて視線を逸らしてしまう。
――何だよ、この態度……。
――まるで僕の事、意識しているみたじゃないか。
そんな態度を取られたら、こちらだって意識してしまう。ずっと考えないようにしていたが、ふいに脳裏に昨夜の夢の映像が鮮明に蘇った。
「だ、だけど、あれだね。ユウ君、ちゃんと朝起きれるようになったんだね」
「あ、当たり前だろ。いくつだと思っているんだよ」
「そう、だよね。君はもう子どもじゃないものね」
両の指を絡ませながら、彼女はどこか恥ずかしそうに――或いは寂しそうに言った。
「それじゃあ、もうお姉ちゃんのモーニングコールは必要ないようね」
長い髪を掻き上げた姿は色っぽくて、思わず息を呑んだ。
「あ、あの……」
ふいに、昨日の夢が鮮明に脳裏によぎった。
普段の清楚な雰囲気からは想像も出来ないくらい乱れた姿と、大人の女の人の身体。
そして、互いに求め合い、絡み合った、飢えた獣のような――
「ユウ君?」
「えっと、その……」
あんな夢を見てしまったせいか、気持ちが昂ぶる。
そして、僕は衝動に身を任せ、彼女を見上げる。
「お姉ちゃん、僕……ずっと前から、お姉ちゃんの事が好きです!」
「……っ!」
彼女は一瞬驚いて目を見開いたが、やがて頬を紅く染めて幸せそうに微笑んだ。
「……ユウ君、嬉しい」
「お姉ちゃん、それじゃあ……」
「うん。私も、ずっと君の事が、好きだった。もう諦めかけていたんだけど……本当に、良かった。すごく、嬉しい」
初恋を実らせた乙女のように、泣き出しそうな顔で笑った。その時、近くの塀に野良にしては綺麗な毛並みをした猫がこちらをジッと凝視していた。
その猫に多少の既視感を持ったが、今はそんな事はどうでもいい。
「僕も、すごく嬉しい。ねえ、お姉ちゃん。これで僕らは恋人同士になれたって事だよね?」「うん!」
「じゃあ……」
少年が、彼女と手を取り合った姿を見て――猫は、さっさとその場を立ち去った。
その時、少年の手元のスマートフォンの画面が一瞬だけ桃色に光り――やがて消灯した。
*
『――ねえねえ、聞いた? 夕方のニュース』
『あー、あれっしょ? 男子高校生が、大学の事務員さんレイプしたってやつ』
『そうそう! しかも、本人の供述マジやべえ。”僕達は恋人同士なんだ”って』
『あー、付き合っていたのはマジぽいけど、すぐに別れ話になったらしいよ。なんか、男子の方も男子だけど、事務員も事務員だよね。未成年に手ぇ出すなっていうの』
『ほんと、ほんと。ショタコンかよ!」
『でも、何で付き合っていたのに、強姦事件にまで発展したんだっけか?』
『えっと、ネットニュースによると・・・・・・”なんか、思っていたのと違った”とか』
『何ソレ、うける! 付き合ってみたら、違ってったって?』
『そんなん、付き合ってみないと分からないに決まってんじゃん!』
*
「じゃあ、いいよね?」
「え?」
そう言ったユウ君の顔は、私の知るユウ君の顔じゃなかった。
”あの夢”と同じで、欲にかられた、獣のような獰猛で強引で――
「いいって、何の話?」
全身を舐めるようなその視線が怖くなり、手を振り払おうとすると――彼は、強い力で私の手を掴んだ。
「痛い! ちょっユウ君、痛いって」
「・・・・・・」
ユウ君は無言で私の手を掴んだまま、家の中へと進んだ。
ユウ君の家は、両親が多忙で家の中にいる事が少ない。そういった理由もあって、幼い頃から、ユウ君は私の家でご飯を食べる事もあって――本当に弟のような存在だった。
そんな彼を家族として大事に思っていた。
現に、私は彼を異性として見た事なんて一度も無かった。”あの夢”を見るまでは。
夢の中の彼は、私の知る素直で気弱な弟ではなかった。
強引で、意地悪で――男の人の顔をしていた。私が嫌がると、むしろ喜んで、執拗にそこを攻めた。
「きゃっ・・・・・・」
ちょうどリビングまでくると、彼は私をソファの上に放り投げた。
慌てて身体を起こそうとすると、彼は制服を着崩し――
「じゃあ、夢の続きをしようか」
欲を孕んだ瞳で、私を見下ろしていた。
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