神様の誕生日
笑い猫
プロローグ
今思い返してみても何故自分があの選択をしたのかわからない。
強いて言うなら疲れてたのか、興味が有ったからなのか、病んでたのか・・・。
ホントにだだ、【何と無く】。
ソファーに座りながらモニターを眺める男はどこか上の空だった。
手元にはモニターのリモコンが握られ、時折操作するがその顔は無表情で、まさに心ここに在らず。
どれ位そうしていただろうか。
モニターを眺める男に変化が訪れる。
表情が動いたと感じた時には大きな溜息を吐き出していた。
「はぁ……。またかよ。そんなに滅びたいなら勝手にしろ。もう知らん」
持っていたリモコンを側に放ると伸びを一つ。
先程までとは打って変わって感情を吐露する男だが、その感情は呆れや怒りが大部分を締めていた。
気持ちを切り替える為に再度溜息を吐き出し、ソファーから立ち上がったその時だ。
ガチャ、と部屋のドアが開かれた。
そのドアから入って来たのは……。
「マスターお帰りッス!お土産欲しいッス!」
満面の笑顔でそう言う女性だった。
歳の頃は20代半ばぐらいだろうか。
鮮やかな黒い髪を後ろで三つ編みにして、パンツタイプのリクルートスーツを着るその格好は就活生と見間違う程だ。
だが彼女がマスターと呼んだ人物は先程からこの部屋に居たはずだ。それなのに今お帰りと言うのはどう言う事だろうか。
「はいはいただいま」
男の方も帰って来た返事をし、片手を上げてヒラヒラさせている。
そんな男の前にやって来た女性は笑顔を浮かべながら両手を突き出した。
小さい子が良くやる、おねだりのポーズだ。
突き出された手と女性の顔を交互に見て男は口を開いた。
「いやいやいや。無いからな?あるわけ無いだろ?俺が直接どっかに行ってた訳じゃないんだからな?」
そう言うと女性は頬を膨らませ抗議の声を上げた。
「ぶー。お土産期待してますって言ったじゃないっすか」
「持ってくるとも言ってないけど?」
「マスターが意地悪したって言いつけますよ?」
「誰に言われた所で、無いものは「あ、お母様?マスターが」分かった!やるよ!だからあの人には何も言うな!」
慌てて女性の両肩を掴んで揺する男は、冷や汗を流しながら必死の形相だ。
そんな男の心情などまるっきり無視して、女性は一転笑顔になり、再度両手を突き出した。
「お土産!」
深く、それこそ魂でも吐き出すかの様に溜息を吐き出した男は頭に手をやりながら天を仰いだ。
暫くして男が口を開く。
「お土産は休暇だ。久し振りに遊びに行くぞ」
休暇がお土産で喜ぶ人は果たして居るのだろうか。
まぁ、休み無しで働いていたら喜ぶだろうが。
「マジっすか!?それってデートじゃないッスか!すぐ行きましょう!今行きましょう!なうッス!」
……喜んでいる辺り、働き詰めだったらしい。
男は溜息を吐きながら、さて何処に行こうかと考えを巡らせ、ドアを開ける。
その先には長い廊下と、左右に幾つもドアが並んでいる異様な光景が広がっていた。
暫くそんな廊下を歩いていると、一つのドアが開いた。
その中から出て来たのは、和服を着て背中にコウモリの様な羽を生やし、額に目がある三目の幼女だった。
それぞれの目の色が違う、所謂オッドアイと言うやつだ。
そして、額の両側から角がちょこんと出ている。
何を狙ってそんな格好になったのか分からないが、色々詰め込み過ぎだろう。
キャラが渋滞を起こしている。
「何だ、お前も行くのか?」
そう話し掛ければ、渋滞幼女は当たり前だと言わんばかりに、腰に手を当てて胸を張った。
「もちろんじゃ!まだ行き先が決まって無いのなら、妾の世界に行くのはどうじゃ?」
「行き先なら決まってるから、それは今度な」
気怠そうに片手を上げて返事をし、二つ隣のドアを開ける。
その先には、青空が広がっていた。
「マスターとデート……ふふっ」
実に良い笑顔を浮かべているが、その後ろからしれっと先程の幼女が付いてきているのに気付くのは、暫く後だろう。
「さって。久し振りに会いに行くかね」
そう呟いた男はドアの先、草原へと踏み出していった。
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