第11話【チヂミ】

長い昼食を終えたあと俺達は沙耶の日用品と食材を買い込んで家に帰ってきた。


「ただいまー」


「た、ただいま」


俺が帰宅の挨拶を言ったあと、椎名が小さな、今にも消えそうな声でそう言った。


うん、一歩前進かな。


「15時前か結構ギリギリになったな。

椎名、引越し業者の人が来たら指示頼むな、触られたくないものとかもあるだろ?」


「お気遣いありがとうございます」


「ん、それまでゆっくりするか」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お、もう6時か。

晩飯でも作るかな」


そう言って俺はソファーから立ち上がる。

あれからは十五分ほど経ってから引越し業者が来て、一時間ほどで荷物の搬入が終わった。

それから俺はお米を炊いてから今までソファーでうだうだしていた。

椎名は今ダンボールの中に入っている荷物整理に勤しんでいる。

着替えなんかも入っているので最低限は整理しないと明日以降が大変になるからだ。


「あの」


「ん?

どうした?」


俺がキッチンで何を作ろうかと食材を漁ってると椎名がリビングに来て話しかけてきた。


「荷物の整理が最低限終わりました。

晩御飯の支度でしたら私も手伝います」


「いや、今日は色々あって疲れただろ?

ゆっくり休んでいてくれ。

後々、役割分担とか決めようと思ってるからその時頼むよ」


「これからお世話になるのに自分だけ休んでいるわけにはいきません」


「おいおい、俺達はもう家族なんだからそんなの気にする必要はないよ。

困った時は助け合いだ。

だから今は俺に任せてゆっくり休んでいつか逆に俺が困っている時に助けてくれたらそれでいいよ」


俺はそう言って軽く頭を撫でる。


あ、女の子の頭って気軽に撫でちゃいけないんだっけか?

俺は慌てて手を引っ込めた。


「わかりました、休ませてもらいます」


椎名は頭を撫でられたことを気にしていないのか特に表情を変えずにリビングに行きソファーに座った。


よ、良かったー。

初日に嫌われでもしたら洒落にならんからな〜。


「よし、始めるか」


そう言ってまず俺はスマホを取り出し【健康 料理】と検索し、食欲のない椎名でも食べれそうなものを探す。


「よし、今日はチヂミにするか」


そして、作るのもそこまで手間がかからず栄養もたっぷりなチヂミに決め、冷蔵庫から材料を取り出していく。


◇◆◇◆◇◆



「出来たぞー。

運ぶの手伝ってくれ」


「わかりました」


そう言って椎名がソファーから立ち上がる。

いちいち動作が綺麗だよな。


「どうかしましたか?」


「いや、何も無いよ」


やば、思わず見入ってしまったのか。

気をつけないとな。


「いただきます」


「いただきます」


俺達は手を合わせて挨拶をし食べ始める。


「あ、そうだ。

量はそんなに入れたつもりないけどできるだけ頑張ってほんとに無理そうなら残しても構わないから」


「いえ、全部食べます。

せっかく澪さんが作ってくれたのですから」


そう言って椎名はゆっくりではあるが食事を進めていく。

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