元女王のためのパヴァーヌ
江藤 祐太郎
1
敵はもう三人しか残っていない。
戦いの始めから相手の数は把握していた。一人ずつ死んだ数も数えていた。
ハマオは、闇の中を風切り音のみで飛来してくる手裏剣をかわしながら、味方の数を確認していった。
自分一人だけが残っている。
何回も死んでいった仲間たちを数え直した。
襲ったのはこちらからだった。ノスプラテからの工作員が潜入している情報をつかみ、アジトを割り出し、人数を確認した。何日もかけて情報を集めて、不意打ちをかけた。
しかし、相手の腕が上だった。
相手を討ち取っていったのだが、こちらのやられた人数の方がはるかに多い。腕の差だけでは無いような気がする。相手の必死さが優っているのだ。
右側の闇が動いた。
反射的にハマオは剣を払う。
手応えがあった。
残りは二人。
ハマオは意識のレーダーを張り巡らせた。呼吸を整える。向こうはじっくりハマオを観察して、タイミングをはかり二人同時に攻撃してくるだろう。ハマオは剣と一体になった。意識、人間である意識は消えて剣になる。相手は逃げる事は考えてない、二人がかりでハマオ一人を殺せばいいのだ。ハマオは待てばいい。相手が動いてきたところで一気にかたをつける。何も考えなくても待てばいい。
動きがあった。
ハマオの身体は、感じた動きに対して反射的に動いていた。
人間である意識が戻った時には、ハマオ一人が立っていた。
「見事だな」
突然あたりが明るく照らされた。移動式の投光器。
明かりの向こうにある人物は見えなかったが、ハマオは軍の国境守備軍のイサキの隊が周りを取り囲んでいるのがわかった。
隊長のイサキが拍手でもしたそうに立っていた。
見ていたのだ。
ハマオを助ける事もせずに。
イサキの一隊は、投光器の明かりの中で、敵の死体と持ち物書類などを確認し、必要なものを回収した。ハマオの仲間たちの死体も。
「おれを助けなかったな」
「お前が相手を全滅させると分かっていたし、下手にこちらも加わると味方の死体が増える可能性があった」
「仲間の死体は丁寧に頼む」
「お前は俺たちに感謝しろよ。遺族への遺体引き渡しと説明は、こっちがしてやるんだから」
それは隊長のハマオの仕事のはずだ。気の重い仕事。
「お前は攻撃隊から離れて、女王の仕事をすることになったんだ」
「女王の仕事?」
「ああ、元女王のな」
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