02.とりあえず山に行こう!

 季節はちょうど秋を迎えた頃、ドライブには良い季節だ。排気ガスで息苦しい都心を抜けたので少し開けた窓から爽やかな風を頬に感じながら気分よくドライブ。


 ウニモグ・キャンピングカー、略してウニキャンにて出発した俺だが、目的地は特に定めていない。とりあえず都会を離れて西の方に行ってみるかと西に針路を取る。


 折角のウニモグだから道なき道を走ってみたいと言うことで山に行くことにする。ただし日本国内で自由に走って良い場所は限られるので林道が関の山だが。


 途中で道の駅で休憩したりしながら山道へと進む。ここまで来て以前観た映画で飛騨高山が舞台だったのが印象に残っていて一度行ってみたいと思っていたのを思い出した。目的地は高山を目指す事にする。本当に行き当たりばったりだ。


 中央自動車道を岡谷JCTまで進み、そこからは長野自動車道に入り北進して松本インターで降りて野麦街道に入る。梓湖あずさこを左手に見ながら更に進み温泉街に近付いた時にその事件は起きた。


 対向車線を重量級のダンプカーがフラフラと猛スピードでやってくる。こいつはまずいと思ったが狭い道では避けきれず、こちらもトラックとはいえ重量級ダンプには質量で負ける。そのまま左手の谷川へと押しやられて落下。走馬灯も流れる暇も無く俺は強い衝撃で気を失ったのだった……。


 だったのだが……!?


 意識を取り戻した俺は相変わらず運転席に座っていた。体をあちこち触ってみるが痛みはない。むしろ以前より調子が良い。


 ダンプと正面衝突したはずだが運転席は以前のままだ。燃料計を見る。よし、満タンだ。あれ?満タン??次のガソリンスタンドで給油しておこうかと思ったので、ある程度減っていたはずだ。おかしい。いや、こうして無事にピンピンしているのもおかしいのだが……。 

 ダッシュボードに設置してあるGPS代わりのスマホも見てみるが『圏外』表示だ。そもそも山奥では圏外でもおかしくない。GPS信号もQZSS信号もロストしていると表示されている。GPS衛星やみちびき衛星の死角に入っていたら信号ロストもあり得るのでこれも判断基準にはならない。


 俺は車内を点検したあと周囲の景色を良く見てみる。山道から谷川へと落ちたので側に川があるはずだが見当たらない。そもそも一緒に落ちただろうダンプも見当たらない。さらに谷もない!! そこは鬱蒼とした深い森の中だった。幸い森のなかにここは熊野古道ですか!?と思うような簡易的に整備された道があってウニキャンで走るには問題なさそうだ。


 車体がどうなっているのか気になって俺は外に出てみる。とりあえずウニキャンの周囲を一周してみるが特に問題は見当たらなかった。キャンピングカーの室内に入って中の様子も確認したが何も壊れている様子はなかった。シャワー・トイレ室を見に行ったついでに洗面台の鏡で自分の顔を見てみる。全く変わりない、冴えない三〇代後半のおっさんの顔だ。ただ疲労が蓄積して不健康そうな顔をしていた記憶があるのだが、今は肌艶もよく健康そうに見える。


 もう一度外に出てウニキャンを眺める。上から落ちてきたとしたら周囲の大樹の枝などが折れていても良いはずだが、まるでウニキャンが忽然と姿を現したかのように佇んでいる。


 うーむ、これは夢でも見ているのだろうか? あの状況を考えるにあのまま死んだのではと思う。そしてこの良くわからない場所はいわゆる天国というところであろうか?


 などと考えていたら遠くからなにかの悲鳴となにかの雄叫び。とにかく尋常じゃない感じだ。俺はとりあえず安全かと思われる運転席に戻ってエンジンを始動させる。エンジンは何事も無かったように無事に始動した。そして走り出そうとしたら、向こうから小山のような何かが向かってくる!!俺は慌てて避けようとして急発進!そして避けきれずにその物と衝突!またかよ!?と思う暇も無く急ブレーキして停車する。


 そして前方を見てみたらその小山のようなものが、かなり離れたところで大樹の根本に倒れていた。


 そっとウニキャンでその小山に近付いてみるとそれは大きな猪のような生き物のように見える。全く動かないところを見ると気絶しているのかそれとも死んだのか……。


 先程の雄叫びはこの生き物だったのだろうか? そういえばなにか悲鳴のような物も聴こえたはず。それに思い当たったのでゆっくりとウニキャンで先に進む。


 しかし、あのデカブツとぶつかったのに何事もないウニキャン。衝撃すら無かった。流石に史上最強のトラックであることは間違いない。


 後から考えればおかしな事なのだが、その時は興奮していて考えもしなかった。


 そして暫く進むと人のようなものが倒れているのが見えた。少し急いで近寄ってみるとやはり人に見える。先程の悲鳴はこの人だろうか? 周囲を見回してみたが危険はなさそうなので降車して近付いてみる。状態がわからないので無闇に揺すったりせずに観察をしてみる。息はしているようだ。そっと仰向けに寝かしてみると耳に掛かった髪がはらりと落ちて耳が露わになる。


 その耳は笹の葉の様に尖っていた。


 もっ、もしかして、本物のエルフ?!


 いや、単に突然変異的な遺伝子的な特徴だけなのかもしれないし……。と思いながら空を見上げると、ふと太陽が目に入った。強く輝く主星と弱く輝く伴星の二つ……?


「マジか、連星?初めて生で見た……!!」


 はい、異世界決定ですね……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る