14 信也の退室

 祐介はこの話を聞いて、なんだか叔父さんという人間がひどく残酷に思えて仕方がなかった。

 しかし、そこにはまた犯人を見つけたいという切実な思いが詰まっているのだろうと思うと、何も言えなくなるのであった。

「分かりました。それで、今、日菜さんと月菜さんの精神は安定しているのですか?」

「ええ、事件当時のフラッシュバックのようなものがあるのではないかと心配していたのですが、きわめて安定しています。口寄せを行うのには絶好の状態です」

 祐介は黙って頷いた。

 そして、彼岸寺の境内で会った月菜のことを思い出した。確かにかなり心は安定しているように見えた。

 祐介には、月菜がなにかを抱えているとは到底思えない、純粋なままの少女に見えたのだが、本当のところは端からは決して見えないのだった。


「日菜さんの記憶は少しずつ戻ってきているのですか?」

「ええ、ただ事件当時のことはまったくです。数年間がすっぽり抜けて落ちてしまっているようです」

「なるほど。分かりました」

 祐介は頷いた。

「記憶が戻らない方が良いとも思うのですが……」

「信也さんはずっと五色村に?」

「ええ、御巫家の屋敷にずっと住んでいました」


 祐介はしばし考えていたが、顔を上げると、

「それでお二人は今どこに?」

「先ほど、明日の口寄せの為に、彼岸寺に向かいました」

「ああ、それで……」

 彼岸寺で出くわしたのはそういうわけだったのか。

「羽黒さんにはこの口寄せに同席していただいて、もちろん八年前の事件の犯人を見つけて頂くのと、その後のトラブルに対応して頂きたいんです……」

 さらっと言っているが、簡単な話ではない。祐介は一族の抗争やら何やらよく巻き込まれるが、実はちゃんと対処できた試しがないのであった。

「羽黒さん。明日は早めに到着してください。よろしくお願いします。それでは、ちょっと胡麻博士に会ってきますので、ここらへんで……」

「ええ、分かりました。何かあったらすぐに連絡します」

 信也は、不安そうな面持ちで立ち上がると、部屋を出て行った。


 祐介はひとり部屋に残されて、ぼんやりと窓を開けた。

 これから何が起こるのだろうか。祐介には分からなかった。

 八年前の悲劇、そして心に傷を持った少女が二人。日菜と月菜は今、かつての事件の封印を解いてしまうのではないか。

 その時、何が起きるのだろうか。祐介には分からなかった。

 犯人を見つけ出したいと躍起になる叔父。疑心暗鬼の残るこの村で、死者の霊がおろされる。殺された母親の霊がおろされる。

 ……その時、巫女は何を語るのだろうか。祐介には分からないことばかりだった。

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