5 不思議な少女
胡麻博士が去った後、しばらく、祐介は本堂で涼んでいたが、ここにじっとしていても仕方がないので、本堂を後にした。
しかし、外に出た途端、日差しがあまりにも暑いことに面食らって、慌てて、鐘楼の影に隠れた。
(さて、どうするべきか……。特に彼岸寺ですることもこれといって無いが……。一先ず、民宿に向かうのも良いかもしれない。それとも、せっかくだから、住職に挨拶をしておくべきだろうか……)
祐介がそんなことを考えていると、どこからか、視線らしきものを感じて、あたりを見回した。
すると、池の片隅の木陰に、変わった和服を羽織った、高校生ぐらいの美少女が立っていて、祐介をじっと見つめていた。
祐介は、その少女を見た。なるほど、美しい少女である。少しばかり童顔な顔つきが、なんとなく未熟な印象を与えた。それに、肌が色白で、脆弱な儚さがあって、それがなんとも浮遊しているような危うさを感じさせた。
「お兄さん。檀家の方ですか?」
少女はそう言って、少しはにかんだ。
「そういうわけではありませんが……君は、このお寺の……」
「巫女ですよ……」
少女は、祐介に近付いてきた。そして、あまりにも少女が自分の側に寄ってくるので、祐介は少し驚いた。
その小柄な少女は、大きな瞳を見開いて、祐介を見上げていた。その表情は、まるで何かに興味を惹かれた猫のように無垢であった。
「お兄さん。ただの観光客じゃないよね」
「どうして?」
「そんな感じがするの」
祐介は、名乗らないのも悪い気がして、
「僕は東京の探偵です」
「ああ、じゃあ、口寄せを見に来る先生って、お兄さんのこと?」
「うん。でも、それは、胡麻博士のことじゃないかな……」
少女はその言葉にふっと笑った。
「胡麻博士のことじゃないよ。胡麻博士はわたし、知ってるもん。ねえ、名前、なんて言うの?」
その少女の声の響きには、やけに未成熟な雰囲気があった。
「羽黒祐介……」
「ふうん。そうだ、そうだよ、羽黒さんって人が来るって、お兄ちゃんが言ってたもの……」
少女は、満足げに頷くと、羽黒に背を向けて、庭の砂利を軽く蹴った。
「君はここの巫女さんだね?」
「そうだよ。わたし、
御巫月菜、祐介はその名前に聞き覚えがあった。
「すると君が、お母さんを口寄せする巫女さん……」
「うん……そうなんだ」
月菜は、何か物思いにふけっているようで、その声は心ここにあらずであった。
どうも不思議な少女だと思った。なにかいつも夢を見ているような浮世離れした雰囲気が漂っていた。少女は、特に話すでもなく、庭をふらふらと歩いていた。……その時。
「月菜……そこにいたの。こっちへ来なさい」
そんな声がして、祐介はお寺の方を向いた。そこには月菜と同じ顔をしている少女がこっちを見つめて、立っていた。
「はあい」
月菜はそう返事をすると、祐介に少しお辞儀をして、もう一人の少女の方へと走って行った。
そうして、二人はお寺の中へと入っていった……。
お寺の側に立っていた少女は、月菜の双子の姉、
(不思議な姉妹だな……)
祐介は、狐につままれたような気持ちになった……。
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