1 双子の美少女

 年の頃、十八になる和服の美少女が二人、五色村の門前の参道の古い瓦屋根の下を歩いてきていた。


 少女たちは、黒髪を品良く結い上げた、どこかあどけなさの残る色白な小顔で、どこまでも整った美しい顔つきだった。そうして、まぶたを少しだけ細めるようにしばたたかせて、輝かんばかりの大きな瞳で、これから赴く色の乾いた山門をじっと見つめていた。

「お姉ちゃん、間もなく、彼岸寺に着きますね」

 そう一人の少女が語ると、もう一人の少女は何も言わずに、少しばかり哀しげにうなずいた。

 二人の少女は顔がそっくりだった。それはあまりにも当然のことで、二人は一卵性の双子だったのである。

「ねえ、お母様はどこにいらっしゃるのかしら」

 妹はそう姉に尋ねた。姉は、妹の方を向いて、優しく微笑むと、

「今でも、あそこで彷徨っているのよ……」

 と呟いた。


 群馬県の奥まったところにある山の中腹に、五色村ごしきむらという風変わりな村がある。

 この村では、夏のお盆の時期になると、青森の恐山のように、全国から巫女が集まってくるのだった。そればかりでなく、五色村には御巫家という古から霊媒を生業にしてきた一族が住んでいる。

 その巫女たちは、恐山のイタコとは多くの点で異なりながらも、死者の口寄せをするといった点では、非常に似通っていた。

 また、青森のゴミソ、沖縄のユタなどといった日本各地の巫女とも多くの共通点が見られながら、この村の巫女は、それらとはあきらかに異なる習俗を持っていたのである。

 恐山のイタコとの大きな違いは、この村の巫女には、失明した者や、弱視の者が一人もいなかったことである。ところが、そのかわりにこの村の巫女には、極度の精神的不安定な状態が認められた。これがゴミソと似通っている点である。

 五色村の巫女は、口寄せをして、カミをおろす、あるいは死者の魂をおろすのだ。そして、我が身体に憑依させて、いわゆるシャーマニック・トランス状態に入るのである。

 この時に、彼女たちの語る言葉は、すべて死者の言葉と信じられている。


 さて、ここで、シャーマニズムの話をしていても、読者は退屈に思われることだろう。しかし、この後に五色村で起きる一連の連続殺人事件は、あきらかにこの村の巫女の口寄せによって行われたかの如き様相を呈していたのである。

 それが例え、非科学的なものとは無縁の人間が起こしたものだったとしても、この事件を覆うようなシャーマニズムの陰影は、時として、関係者の胸中を深くかき乱していくことになるのであった。


 さて、双子の少女は、門前の参道の突き当たりにある彼岸寺という寺に入った。

 この世で一番の美男子であり、天才的な推理力を持つ、私立探偵の羽黒祐介が五色村に到着したのは、それから間もなくのことであった。

 蒸し暑い目の眩むような門前町を、羽黒祐介が爽やかな顔に、ハンカチを当てて、ふらふらと歩いてきた。祐介は、老婆が店の準備をしているのを見つけると、

「すいません。彼岸寺というのはこの先ですか?」

「ありゃぁ、あなた、ずいぶんと綺麗なお顔をしているわねぇ。品がありながらも、精悍な感じがして……」


 老婆は、しばらく、祐介の顔をまじまじと見ていたが、そんなことを言っている場合ではないと思い直した。

「あの、彼岸寺は……」

「ああ、ごめんなさいね。この先を歩いていくとね。立派な山門が見えてくるからね!」

 老婆はそう言って、微笑むと、さっさと店の中に入ってしまった。

 客もいないのに忙しそうなのは何でだろう、と祐介は少し身勝手なことを思ったが、また構わずに、日射に包まれた門前町の参道を歩いていった……。

 ……この先に何が待っているのか、この時、祐介には想像もできなかったものである。

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