僕の正義、母の正義、

あおみどろ

指切りげんまん

「まさよし!早く勉強しなさい!」


ゲームをしていた僕のところにヒステリックな母さんの声が聞こえる。


「もう受験生でしょ?なんでそんな呑気に過ごしてるのよ!もっと勉強して、少しでもいい高校に行けるように努力しなさい。」


金切り声で怒鳴る母さんに少しばかり反骨心が芽生えるけど、ここで反抗したら少なくとも一時間は説教を始めるから、大人しくしておかなくちゃならない。


「ごめん。休憩してただけだから、今すぐ始めるよ。」


穏やかに、穏便に済ませようと心がけた返事をすると母さんは、


「全く…休憩も程々にして頂戴。しっかり勉強しなさいよ?」


ん。と返事と言えるかはわからないけれど受け答えをした後、母さんは僕の部屋のドアを閉めて行ってしまった。


そもそも、僕の部屋にノックもせずにいきなり入るのは少しどうかと思う。


プライバシーって言葉、知ってる?


なんて問いかけてみたいけど、絶対顔を赤くして怒るからなぁ。


受験だって自分がする訳じゃないのに…。


母さんには言えないけど、本当ならうちの近くにある公立に行きたかった。


公立の中でもそこそこ頭いいほうだし。

生徒の質も悪くないし。校則緩めだし。

何より近い。本当に近い。


大学だっていいところに行けって言うんだろうな。


偏差値も大事かもしれないけど、学校の質も大事だよ?


母さんが奨めてる学校、生徒の悪評多いんだよ?


母さんみたいな人のこと、世間じゃ学歴厨って言うんだよ?


まあ、学歴社会のこのご時世では気にせざるを得ないのかもしれないけど…。


父さんなら、諌めてくれたのかなぁって。

少し思ったりもする。


父さんが海外に単身赴任中だから気負ってるのかな。きっとそうだ。


元の母さんに戻ってくれないかな。


今までみたいに暮らしたいな。


正直、父さんがいた時の方が楽しかった。


母さんだってその時は笑ってた。


勉強なんてしなくたって、今は別にいいんだ。


夢中になれるものも、胸が熱くなるような体験も、いつの間にか無くなってた。


母さん、中三って意外と大人だよ。


大人が思ってるよりもずっと。


不安からこんなになったんでしょ?


不安だから、僕に厳しくしてるんでしょ?


不安がらなくていいのに。


でも、母さんが安心できるんなら。


僕が少し妥協することで、母さんの心が楽になるなら。


母さんの苦しみが薄れるなら。


それはそれでいいのかもしれない。


だったらせめてもの親孝行をしよう。


どうせ大人になっても、ろくなことは出来ないだろうから。


勉強をもっとして、


良い成績を安定して取れるようにして、


いい人生を送ろう。


それが、僕にとっての正しさなんだろう。

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