第53話 女神見習い、人助けする


 「うぉっ、あぶなー」


 今日は美味しいりんごを取りにやってきたんだけど……まえ宝珠の花の採取に来た時に多分?りんごを見つけたんだ……あんまり熟したのがなかったから数は少なかったけど、リディも気に入ってたみたいだし、熟したものがあるかなーって取りにきたんだよね……


 なんだけども……前方では魔物と男の人が戦っているようだ。

 その周囲には魔物と人が倒れている。かなり危うい状況みたい……体格からして男の人だと思うけど、ひとりに対して魔物は複数いるし、倒れた人達を守るために必死に耐えて戦っている。


 「ふう、見つかるとこだったよ。危ない危ない。それにしてもこんなところまでよく来れたなぁ」


 このままほっておいて目の前で死なれるのは夢見が悪いし、男の人が膝をついた時にほとんどの魔物のターゲットが自分に移ったみたいで魔物は猛然とこちらへ向かってくる……咄嗟に男の人に当たらないように魔力をちょっと多めに込めて風魔法の《突風ガスト》で吹き飛ばし《風刃ウィンドブレード》や水魔法の《水刃ウォーターブレード》で何度か攻撃すると散り散りに逃げていった。

 男の人を攻撃しようとしてた魔物にも魔法を放った……なんかアレがボスっぽかったから狙ったんだけど、効果があったみたい。

 多分、倒せてはないと思うけど、戦意を失わせることができたみたいでよかった。逆上して襲ってくる場合もあったから余計に……


 もし、この人が余計なお世話だとか私を敵だとみなし攻撃してきても結界があるから多少は大丈夫なはず……なんせ声もかけずにいきなり攻撃したから勘違いされても仕方ない。本当は声をかけて相手に知らせるのがベターらしいんだけど……

 緊張しつつジッと待つも……男の人は私に背を向けて膝をついたまま動かない。いや、あんまりここに長居すると瘴気にやられるんじゃ……倒れてる人達も。


 「あの……」


 そっと声をかけるも微動だにしないので軽く肩を叩くとその人は崩れ落ちてしまった。


 「えっ……あ、よかった気絶してるだけみたい」


 泥や魔物の返り血、男の人自身の血でドロドロだけど刈り上げられた榛色の髪、顔立ちはかなり整っている。瞳の色はわからないけどこんなドロドロじゃなかったらかなりモテそうな感じ……ま、私には関係ないけど。

 

 残ったのは彼らが倒したであろう魔物の死骸……そこらへんに転がっている荷物も含めてストレージに詰めていく。


 「うわ、ストレージ結構ギリギリだったわ……」


 倒れている人の怪我も命の危険がない程度、治してから気絶した隊員をひとりずつ瞬間移動で広場近くのかつての倉庫跡の安全な場所へ移動させる。

 あーあ、今まで使ってたけど、これでこの場所も使えなくなったな……また瞬間移動する場所考えないと。


 「それにしても皆、デカすぎだよ……もっと軽かったら2人一緒に運べたのに……」


 鎧や剣など重いものも多くて結構苦労した。瘴気によって気絶してる人もいて怪我や状態は様々だった。

 全員を安全な場所まで移動させた後、最後まで戦っていた人の手に宝珠の花があるのを見つけた。その人は握ったまま離そうとしない。


 宝珠の花は魔力を溜め込んでおり、採取した時点から徐々に魔力が抜けていくらしい……ストレージに戻し忘れた時にわかったんだけど、魔力が抜けるとキラキラして綺麗だった花は輝きを失った。

 つまり、採取してから早く調合できればできるほどポーションの効果も高まるらしい。

 宝珠の花は宝石のような見た目をした美しい花で花自体は大きくないが遠くからでも目立つ。


 調合すると粒子になり溶けてしまい……少しもったいないような気もするけど飾っておけるわけでもないので仕方ない。


 「最後まで仲間を守ろうと戦っていた人だ……ああ、宝珠の花を取りに来てたんだ……ポーションに使うんだよね? でもこのまましゃ量が足りないんじゃ……」


 彼が握っていた花は私が採取した花よりだいぶ小さい上に輝きが失われてかけている。


 「これで効果あるのかな……」


 せっかく持ち帰ってもポーションの材料にならないと知ったらさぞ落ち込むだろうな。

 

 「魔物の好物だから、余計に大変だったろうなぁ……まぁ、さっきの魔物はここでは弱い方だったけど」


 よっぽど大事な人の為じゃないとここまで来ないよね……

 そういえばギルドでこれを時間内に採取して、持っていくという無理依頼が貼ってあったな……かなりの高額で。


 「……あれ、私が早々にサブマスリスト買い取りに持って行ってたらこの人たちこんな事になってない?」


 この場所まで到達できるなら、かなり腕が立つはず。それにこの格好……冒険者じゃないみたいだから依頼主が軍に依頼したか軍が自分たちでやる事にしたのか……


 なんか罪悪感が湧いてきて仕方ない。やはり目の前で死なれかけたのが大きい。冒険者として初めて人が死にかけている現場に出くわしたのだ。無理もない。

 瞬間移動で家まで戻り、畑から宝珠の花を必要な分より少し多めに採取し、その人に握らせておく。群生地には最低限の花しかなかったから畑から持ってきた。


 「たまには人助けもいいよね。これも何かの縁だし、うんうん。さて、まずは……浄化しないと。よし! おまけに加護も授けてあげよう! 特別サービスだぞー」


 その場の全員、十数人と宝珠の花に浄化と加護。変な罪悪感とノリで加護まで……後でやっちまったー。って後悔するやつ。

 まぁ、浄化はしないといけなかったから問題はないけどさ。顔も見られてないし加護が増えても平気な……はず、多分。

 細かい傷はまぁ、いいか。とりあえずのゲガは治したし。浄化さえしておけばあとはなんとかなるかな……というかなんとかしてくれ。本当は《清浄クリーン》で鎧とか服も綺麗にしたかったけど……無理。それやったら私がリディ待つ家に帰れなくなるもの。

 

 ここは魔物もほとんど出ない安全な場所だし、きっとすぐに目が覚めるはず。あそこまで来れる実力者なら目覚めてすぐでもこの辺りの魔物に負けないはず。

 

 ストレージに入れておいた荷物や魔物の亡骸もそばに置いておく。

 魔物も結構な買い取りになると思うけど……倒したのは彼らだし。

 出し忘れがないかチェックして確認……あ、この背負い袋もこの人たちのじゃん。あ、ナイフもあったわ……うん、あとは大丈夫かな。


 「ま、これでいっか」


 そろそろ数人が目覚めそうな雰囲気なのでそそくさとその場を去る。この時のこの行動が後に新たな厄介ごとになるとは知らずに。



 「いやー、魔力たくさん使ったら疲れちゃったよ。今日は爆睡コースだな。あ、果実採取忘れちゃったよし……まぁ、いいか。また明日にでも行こう」

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