第4章

第42話 女神見習い、呪われた少女と出会う(1)


 日も暮れかけた頃、外で何か物音がした……


 「まさか魔物?……でも結界は害意があれば入れないはず……」


 そっと扉を開くと……やせ細った真っ黒な髪の少女とその肩には白い鳥がいた。どうやらお腹が空いて畑の実を食べてたみたい。

 畑の実を食べられてしまったのは少し残念だけど、少女の細さを見るとそれも吹き飛んだ。

 ……どうやってここに来たんだろう?

 びくっと肩を揺らした少女……なんかオーラみたいなのが見えるけど……あ、引っ込んだ。


 しばらくの間見つめ合った後


 「……私はエナ。ここに住んでるんだけど……お腹すいてるのかな? なんか食べる? あ、料理の腕はあんまり期待しないでね」


 とりあえず、小屋の中から比較的上手くできたスープと街で買ったパンを少し多めに持っていく。

 お、逃げ出さずに待ってる……よかった。


 「……どうして」

 「ん?」

 「……みんな、こわがるのに」


 それってさっきのオーラみたいなやつのことだよね?


 「うーん、まずは食べようか。話はそれから……ね?」


 だって今にも倒れそうなくらい細いんだもん……先に食事をしてほしい。

 魔法で《ライト》をつけ、毒を入れてないことをアピールするために先に口にする。すると少女より先に肩にとまっていた白い鳥がパンを食べた。それを見て安心したのか少女もスープを口に運ぶ。

 ひとまずお腹いっぱいになったようなので


 「改めて、私はエナ。よろしくね」


 少し迷った様子を見せたあと


 「……リディア。この子はブラン」

 「さっきのってみんな怖がるの?」

 「気分が悪くなるって……髪と瞳もお前は呪われてるからだ、呪われたお前を生んだせいで母親は死んだとか、だから捨てられたんだって……」


 淡々と無表情で答える少女…… なんか必死に感情を殺してるみたい……


 「呪いかぁ……」



 悪いとは思ったけど、無断で『女神の心眼』……


-----


【ステータス】 


 種族:人族

 氏名:リディア

 状態:疲労/忘我の呪い[9578923]

 体力:10/320 

 魔力:400/670

 運:3(ー64) 


スキル 

 ・火魔法レベル1 

 ・水魔法レベル2

 ・風魔法レベル2

 ・闇魔法レベル1

 ・闇属性耐性レベル1

 ・隠密レベル3

 ・気配察知レベル2


 ー称号ー

 呪われた少女


 ー加護ー

 献身の騎士の守護


-----


【ステータス】 


 種族:キラーバード

 氏名:ブラン/?????

 状態:通常

 体力:280/460 

 魔力:350/350

 運:28 


スキル 

 ・風魔法レベル2

 ・状態異常耐性レベル3

 ・隠密レベル5

 ・気配察知レベル3


 ー称号ー

 献身の騎士


 ー加護ー

 ????の加護


-----



 忘我の呪いを女神の知識で調べると……


 説明では負の感情が高まると周囲に瘴気が発生する。瘴気が発せられるとともに数字が増え、数値が9999999以上になってしまうと死亡し全てを忘れ体を異形に乗っ取られてしまうらしい。



 こんな呪いがあるなんて……



 「私は怖くないし、気分も悪くならないみたいだから……我慢しなくていいよ」


 そっと少女を抱きしめる。びくっと体を硬直させた後、次第に力が抜けていった……

 瘴気が発生したって、数値が超えてしまうと死んでしまうとはいえ……1度くらい感情を押し殺したりせず、思いっきり泣いたっていいじゃないか。ここでは誰にも害を及ぼすことはないのだから。


 「……っ」


 しばらくボロボロと泣いた少女は安心したのか泣き疲れたのか眠ってしまう。日も暮れてきたので客間に運ぶ……私でも簡単に抱えられるほど軽くてびっくりした。

 魔物らしき鳥もおとなしく付いてくるので部屋に通す。


 「じゃあ、ブラン? 一応扉は開けておくから何かあったら知らせてね?」


 返事をするかのように私の周りを1周した。



 部屋に戻り……


------


【交信】

 連絡先一覧

 《慈悲の女神 フィラ》

 《慈悲の女神部下 コルド》

 《大地神 アルネルディ》

 《愛の女神 メルディ―ナ》


 《大地神 アルネルディ》を選択しますか?

 [はい][いいえ]


------



 アルさんを選んだのは、1番気心が知れていて、聞きやすいから……好き勝手にお泊まりもしてたぐらいだもの。


 『ほーい、アルさんじゃぞ。エナちゃん、さみしくなって連絡してきたのかの……まだ数日なのにわし困っちゃうな』


 全然困ってなさそうですけど……


 「いえ、そうでなくて……ちょっとアルさんにしか聞けないことがありまして」

 『なんじゃ?』

 「あの、いま家に忘我の呪いという呪いを受けた少女となんか意思のあるっぽい鳥の魔物がいてですね……どうにかしてあげられないかなって……」


 できれば何か力になりたい……アルさんなら何か知ってるんじゃないかな?


 『ふむ……その呪いはかなり強力じゃ。呪われたらすぐに死んでしまうはず……』

 「でも、あの子しばらく森をさまよっていたみたいですし、呪われたお前を生んだせいで母親は死んだとか、お前は呪われてるからだ、だから捨てられたんだって……」

 『そうか……ならば答えはひとつじゃな。ごく稀に母親が呪いを受けた時に胎にいる子も呪いがうつることがあるのだ……ほとんどは生まれる前に母親が死ぬか、死産だが……胎児のため順応したんじゃろうよ』

 「そんな……」

 『ただの呪いなら教会でなんとかしてもらえたかもしれぬが……その子は教会ではどうにもならんじゃろうな』

 「何か方法があるんですよね?」


 無いとか言われたらどうしよう……


 『うむ。安心せい……エナちゃんにしかできないことがあるぞ』

 「私にしかできないこと……何ですか?」

 『浄化するんじゃ! エナちゃんが女神見習いだからこそできることじゃ……』


 こんなところで女神見習いが役に立つなんて……


 「ありがとうございます!早速試してみます!」

 『ふむ。困ったらいつでも連絡してくるんじゃぞ!』  

 「はい!」



------


【交信】

 《大地神 アルネルディ》との交信を終了しました。


------



 早速、『女神の浄化』が効果があるかもしれないので、寝ている少女に試してよう……部屋を訪ねると鳥が少女を守るかのように立ちはだかった……まさに献身の騎士。


 「ブラン、一応説明するね? 私の魔法がリディアの呪いに効くかもしれないの……決して傷つけないから、試させてくれない?」


 すると、ブランはもし嘘だったら殺す的な視線を私に向け横にずれた……そこで監視するようだ。

 理解してるかわからないと思ったけど多分わかってるっぽい……


 献身の騎士の許可も得たので、『女神の浄化』を少女にかける。

 白っぽい光に包まれた少女に苦しむ様子はない……よかった。


 心眼で確認するとすると数値が

 忘我の呪い[9578923]→ 忘我の呪い[9578823]と減っていた。


 「おっ、ちょっとは効果あるみたい……じゃあもう1度」


 かけてみたが今度は効果が得られなかった。


 「うーん……1日に1度しか効果がないのかもしれない。ブラン……今日はこれでおしまい。明日また試してみようか……ゆっくり休んでね」


 やはりブランは私の周りを1周した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る