第14話 女神見習い、街を出る

 

 旅の準備として、お金は下着の中や靴下の中など色んなところにバラバラに隠して持つことにする。


 お金を分けて残った硬貨は財布代わりとして、感謝ポイントで交換した際に硬貨が入っていた巾着をそのまま使用することにした。


 元の世界から一緒に来た財布(革に型押し模様のある巾着袋)はマジッグバッグの奥に押し込んである。

 基本的に元の世界から一緒に来たものは壊したり汚したりしたくないのであまり使わない予定。使うとしても必要最低限にするつもり……無くしたりしたくないから。

 いつか、余裕ができたら可愛い巾着袋か財布作るんだ!……裁縫の腕に自信は全くないけど。あ、お店で買ってもいいのか……


 背負い袋にも携行食1日分、干し肉やナッツをひと袋ずつ、水袋やロープ、お金を少しとタオル代わりの布(カサ増し)を入れておく。

 これで、はたから見ても立派な旅人。怪しまれないだろう……多分。


 それから数時間のうちに準備は整った。


 最後の日となった教会の部屋でぐっすり睡眠をとり、辺りが薄明るくなったころに部屋を元通り綺麗にしてから準備を終えてこっそり教会を出発し、歩いてランヴィを目指す。

 最後に振り返り教会に向かって一礼。


 「……お世話になりました」



 人がまばらな門でも止められることもなくひと安心。ここで、止められたら目も当てられないもの……

 

 足早に門を出て歩きながら忘れ物がないかチェック……

 道中に何かあるといけないので、魔よけ香をぶら下げた背負い袋やショルダーバッグは外套の内側に入れておく。


 「後ろから見たらまん丸でちょっと格好悪いけど……街の中じゃないし、まぁいいや」


 あとは雑貨店のおかみさんにもらったナイフホルダーにナイフをセットして、石を入れた革袋にいつでも手が届くよう腰から下げた。うん、全部あるね。


 「比較的安全な道らしいとはいえ女のひとり旅、用心に越したことはない……はず」


 雑貨店で買った指輪もはめたし変容のネックレスもつけた。

 変容のネックレスは私の魔力量だと全く問題なく使えたので、この街にも多かった茶色の瞳に変更した。これで、目立たないはず。


 髪を右サイドで三つ編みにして幸運(微)のリボンで結び、フードを目深にかぶる。

 街から離れ、門が見えなくなった頃に女神の聖域を展開する。


 この女神の聖域って魔力を先払いして結界を作り出せるからすごく便利なんだけど、まだまだレベルが低いからちょくちょく結界を張りなおさなくちゃいけないんだよね……

 しかも結界が自分から離れれば離れるほど魔力消費が激しくて、魔力消費を抑えるためにめちゃくちゃ近距離に展開してるから……遠くから見たら私自身がキラキラ光っているように見える。


 道中、目に付いたものを女神の心眼で調べたり街では使えなかった火や地魔法を使ってみたり、他の魔法の練習をしつつ移動する。




 テクテク……

 テクテクテク……


 昼を過ぎ、かなり魔力も消費したしお腹もすいてきたので木陰で休憩。携行食なかなかおいしいな……


 「おっ、この辺群生地みたい……」


 ポーションとかに使えるかも……目についた植物など背負い袋に入れていく。

 女神の心眼で確かめつつ、触れただけで危険なものはそのまま放置する。

 

 移動は基本的に1本道なので特に迷うこともなく、道もある程度整備してあったので歩きやすい。

 兵の巡回もしているようで正にのどかな田舎道の雰囲気だ。


 テクテク歩きながら、遠くに人が見えたら速攻で女神の聖域を解除……だってキラキラ光ってる人とか怪しさ満点だよね?


 「……あれ、身を守るための女神の聖域なのに人が見える度に解除してたら本末転倒じゃないか?」


 幸い、今まで遭遇してきた人に悪い人がいなかったからいいものの……結構大変な事実に気づいてしまった気がするな。これからどうしよう。


 「自分が不審者に見られることを取るのか、身を守る事を取るのか……」


 はぁ……キラキラ光る不審者になりましょう。どうか、誰とも遭遇しませんように……ぐすん。



◇ ◇ ◇


 

 道中も不審者問題以外、特に何もなかったので割愛。


 だいたい毎日こんな感じ……


 テクテク……テクテクテク……


 休憩休憩。あ、木の実だ。モグモグ。


 テクテク……魔法魔法、練習練習。テクテクテク……


 お昼休憩。モグモグ。ゴクゴク。あ、群生地はっけーん。心眼、心眼……プチッ、プチッ。


 テクテクテク……


 宿にとうちゃーく。わーい。ご飯だ。モグモグ。ゴクゴク。


 はあ、疲れた。お休みなさーい。スピー、スピー。



 2日目の夜に


 「あれ、植物とか木ノ実もストレージに入れれば新鮮さを保てるじゃんっ!」


 そう気づいて慌ててストレージに入れた。いや、最初から気付こうよ……はぁ。



 道中の宿も強面の主人や豪快な女将、昔は名の知れた冒険者だったらしいとか、やはり多少の荒事に動じない人が宿をやっているみたい。

 食事が温かいってだけでなんかホッとした。それだけでなくご飯もおいしかったし、宿がなかったら野宿するしかなかったので本当にありがたい。結局、野営セットは魔よけ香以外の出番はなかった。


 しかし、道中のことにばかり気を取られて肝心の街の様子などの情報がほとんど無いことに今の今まで気づかなかった。

 今わかっていることといえばファルニトより人口が少ないという程度。


 「まあ、何とかなるか……」


 ということで、節約のため馬車には乗らず……道中の宿に泊まり魔法の練習をしながらひたすら歩き続けること6日ーー


 あれ……のんびり歩きすぎたせいかな? 予定の5日で到着しなかった。


 「……もしかして宿代の方が馬車より高くついたなんてことない、よね?」


 ……いや、計算なんてしちゃだめ。考えたら負け、考えちゃだめ……ぐすん。

 歩き疲れたけど、回復魔法で靴ズレや疲れも回復できるし魔法の練習にもなるし一石二鳥だった。うん、そう思おう。


 ちなみにキラキラ光る不審者問題だけど……結界を張るときに魔力をかなり込めるとほぼ透明にすることができた。具体的にはよくよく見なければ大丈夫なくらいかな。


 「この魔力効率の上がる指輪がなかったらずっとキラキラした不審者のままだったかも……勧めてくれた雑貨店のおかみさんに感謝だね」


 女神の聖域のレベルが上がればもっと少ない魔力で細かい設定ができるみたいなんだけど……女神補正があるとはいえさすがにこの数日間じゃ無理だった。
















*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*


 ※以下に火災の話が含まれています。

 読まなくても話の進行上、全く問題ないのでスルーしていただいてもかまいません。
















ー後日ー


 カンカンカン……カンカンカン!

 カンカンカン……


 「おおーい! 火事だ! 」

 「急いで消し止めろ!」

 「「「おうっ」」」

 「怪我人は急いで教会に運べよっ!」

 「「「おうっ」」」


 どこからか出火した火は瞬く間に広がっていき……次々と家や店が火に包まれていった。

 街には木造と石造りの家や店舗が点在していたため、木造は燃え広がり、石造りは蒸し焼き状態に……街は大変な騒ぎとなった。


 数時間後、水魔法の得意な者や冒険者の手伝いもありなんとか火を消し止めることができた。


 大きな被害となったものの、幸いにも大地神アルネルディ様のおかげで怪我人は出たものの死者は出なかった。


 つい数時間前までにぎわっていた大通り……今は焼け焦げたり煤で黒ずんだ家や店舗が並ぶなか……1部に異様な光景があった。


 「どうなってんだこれは」

 「俺だって知りてぇよ。確かに店は火に包まれたはずだったんだ」

 「ええ……私たちもそうでしたよね? おじいさん」

 「……ああ、間違いない」

 「そっちもかい? あたしんとこも同じさ……こりゃ一体どうなってんだい?」


 なぜか他の店舗や家と同じように火に包まれたはずの衣料品店、食料品店、雑貨店だけは無事だったのだ。

 店の中も外も火事の痕跡が全くと言っていいほど見当たらない。

 店主たちも店が火につつまれ、死を覚悟したはずなのにこうしてピンピンしている。


 不思議がる皆を前に大地神アルネルディは


 「どこかの女神の置き土産じゃな……」


 ふぉっふぉっふぉっと楽しそうに笑って去っていたという。


 それを聞いた衣料品店、食料品店、雑貨店の店主たちは何故かある1人の少女が思い浮かんだそうだが、真相を知る者はここにはいない。


 「「「「まさかね……」」」」



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