第2話 女神見習い、爆誕?(2)
「さあさあ、こちらです。女神様」
「ちょ、ちょっと待って……」
先ほどから司祭さんはそのまま無視してどんどん話を進めていく。
あ、司祭さんていうのはさっきすっ飛んできた偉そうな人のことね。
今、私はこじんまりとしているけど、大切に手入れされていることがわかる聖堂を複数人にガッチリ囲まれて歩いている。
いや、歩かざるをえない状況なんだけどさぁ……数メートル先へ移動するだけなんだからそんなにガッチリ囲まなくてもいいじゃない。
私の意見は全く通らず……半ば強制的に促されるまま、落ち着く暇も状況を把握する余裕すらなく、他より少し豪華な椅子に座らされる。なんでしょうね、これは……
何か言おうとしても周りの人たち「さあさあ」しか言わないんだよ。人の話を聞く気が全くないよね……はぁ。
私が椅子に座るのを今か今かと待っていた人々は、私が座った途端に椅子の前へどんどん並んでいき、あっという間に長い列ができた。揉めることなく並んで行く様子はあらかじめリハーサルしたかのようだ。
「はあ……」
少しヤケになりつつも覚悟を決め、とにかく行列に並ぶ人たちに頭の中の知識を引っ張り出して、というか勝手に浮かんできたんだけど……女神の加護? を授けたり回復魔法を使っていくものの……全然列が途絶えない。逆にどんどん長くなっている気が……
「女神様の加護を授かろうと教会の外まで人々が列をなしていますっ」
「ハァ、ソウナンデスカ……」
司祭さんはずっと興奮気味でそばにいるんだけど、ちょっとうるさい。
私としては少しでいいから練習時間が欲しかった。失敗できないから冷や汗ものなんだよ……
とりあえず考えるだけで情報が出てきてくれるのはもの凄く助かってるけど、知識と実践は違うんだからねっ!
最初の頃に並んでくれた人とか、本当に魔法がかかってるのか若干怪しいけど……た、多分大丈夫なはず。
女神の加護を授けるのは人だけでなく、結婚のお祝いの時に着る服、冒険者らしき人の装備、アクセサリーやお守りなど様々なものにも加護を授けていく。
そうなると当然時間もかかるわけで……無心で励み夕日が教会に差し込んできた頃、ようやく人の列が途切れた。
体感にして5、6時間くらいかな? 休憩なしとか流石にきついよ。ずっと同じ体勢をしてたから体がバキバキだし、お腹もすいたよ……
「はぁ、ようやく終わったー」
それに、加護や回復魔法を使っている間も……
「ありがとうございます。女神様」
「女神様。ありがとー」
「女神様に生きているうちにお会いできて本当に嬉しいです」
などなど……そう言われて悪い気はしなかったけど数百年ぶりの女神降臨だと信じているのに、なんだか周囲を騙しているようで心苦しくなり……
途中からは女神見習いなんだし、本物の女神が良いって言ってたんだからと自分を納得させないとやっていられなかった。半分ヤケクソだったよ。
今日は浄化の魔法を使うことがなかったから何とも言えないけれど、あまり機会はないのかもしれない……
とりあえず今は回復魔法と加護を授けることでいっぱいいっぱいだから浄化の魔法を使わなくていいのはありがたい。
今日のところはほとんどが加護を受けに来た人で、あとは比較的症状の軽い人が多かったのか回復魔法で何とかなったけど、もしも今後重症の人が来た時にちゃんと治すことができるのかな……いやいや、まさか今後なんてないよね。今日だけだよね?
少しの不安はあるけれど、今日1日を乗り切れたことにホッとしてる。
ようやくひと息ついたところで司祭さんに教会や敷地内を軽く案内してもらって部屋へ向かうーー
ここはリタール王国のファルニトという街にある教会で王都からは馬車で4日程の場所にあって、そこそこ栄えた街なんですとか、女神様が降臨してくださり感無量です的なこととかを司祭さんがひとりでずーっとしゃべり続けてる。
案内しながら司祭さんが女神様の世話をする者をつけますとか言ってたけれど、そこは断固拒否した。
知らない人と四六時中一緒にいられないし……せめて夜くらい気を使わずひとりでゆっくりしたい。
部屋の前に着いてようやくひとりになれるかと思ったら、司祭さんが思い出したかのように
「そうでした。確認させていただきたいのですが、女神様はお食事はいかがなさいますか?」
……食事? もちろん食べるけどっ!
「是非、いただきたいと思います」
「かしこまりました。では、後ほど部屋に持って行かせます」
どうも神にとっての食事は嗜好品ととらえられているみたい……だからお昼抜きだったのかな。嗜好品だから抜いても問題ないって?
いやいや、ごはん食べないとやる気と集中力が大いに削がれてしまう……
「本日はごゆっくりとお休みください。明日もよろしくお願いいたします」
「……ありがとうございます」
案内された部屋に入ると教会同様、多少使い込まれた感はあるもののこまめに掃除されている綺麗な部屋という印象を受ける。
「これって教会の中でもかなりいい部屋なんだろうなぁ……」
部屋には小さな机と椅子があり、机の上にはランプが置いてある。
その横にある扉を開けると水場のようだ。中には水の入った桶と布、そしてよくわからないマメ? 石? にも見えるものと目の細かスポンジ? が置いてあった。
「スポンジっぽいやつと一緒に置いてあるから、石鹸的な何かかな?」
窓際には清潔そうなベットがあり、その上には着替えまで置いてある……ありがたい。着の身着のままだったからね。でも今着てる服の方が女神っぽいから人に会うときはこちらを使い倒そうかな。
造り付けの本棚には本が数冊ある。手に取ってみると……
「おぉ、読める。話す以外の読み書きも問題なく使えるんだ。ちょっと安心した」
あとは壁に小さめだけど鏡がかかっていたので覗いてみた。
「…………コノヒト、ダレ?」
そもそも黒い髪に黒い瞳、体型だって平凡もいいとこ。
服装はチュニックにジーンズ、足元はスニーカーだったんだけど……
こちらに来た時にはすでに薄く柔らかい布が重なったワンピースと編み上げサンダルのようなものに変わっていたので……ああ、女神様仕様か。と深く考えずにいたけれど……というか考える余裕がなかったんだけどね。
「まさか、自分の容姿まで変化しているとは思いもしなかったわ……はぁ」
鏡には透けるような白い肌、グレーの瞳、柔らかそうな金髪が後ろで綺麗に結われたスタイル抜群の美人が覗き返していた。
ただ、ポカーンとした顔が映ってたけど……いやいや、間抜け面してても美人てどういうことよ?
鏡が小さくて全身が写りきらないから思わず椅子に乗って確かめてしまった。きちんとサンダルを脱いで乗りましたよ……編み上げだったからサンダル脱ぐのだいぶ面倒くさかった。
鏡に映る顔立ちは微かに面影が残っているような気もする……いや、ほぼ面影ないわ。
あるとしたら目が2つあって、鼻が1つあってその下に口があることぐらい。残念ながらそれ以外に共通点を見いだせなかった……ぐすん。
あ、ひとつあった。年齢は同じくらいな気がする。
「……そりゃ、みんな女神様だって信じるわー」
……あ、ふたつだった。声もそのままだった。
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