第七十二札 うぇぽん!! =武器=

まえがき

屍から一撃をもらって。

今日は今日で何だか雰囲気が……!?









 館の居間。

 いつもは賑わっているのだが、今に限っては皆一様に真剣な面持ちをしており、何故か重苦しい雰囲気に包まれていた。


「……静流しずる椎佳しいか利剣りけんをどうして行きたいのじゃ?」

「どうして行きたい、って?」

「……」


 ――利剣抜きで今後についての話がある――

 とかばねの呼び掛けで集まった静流と椎佳、そして咲紀さきだったが、突然話を振られた椎佳は屍の質問の真意がいまいち読めずにそのままおうむ返しで返事を返した。


「戦闘になった際、戦わせるのか避難させるのか、じゃ」

「それは……」

「は? そんなん戦わせるに決まっとるやろ!」


 屍の出した選択肢が意外すぎた事で椎佳が眉根を寄せ、語気を強めて断言する。


「戦わせる……それにしては修練と言い技術といいお粗末過ぎぬか?」

「しかし、利剣さんは頑張っておられますよ」

「そうや! あいつはそれなりに真剣やで!」


 二人が利剣をかばうも、屍は表情を変えずに話を続ける。


「勘違いするでない。私は利剣の頑張りや努力は否定しておらぬ。ただ、今は結果と実力の話をしておるのじゃ」

「……」

「う……」


 言葉に詰まった姉妹に対して屍は一度かぶりを振った。


「お主らは武術においてそれなりの実力があり、葉ノ上だ樹条だと言う名を聞けば誰もが一目置く存在かもしれん。じゃがあやつはそうではないのじゃ。才能がないのであればはっきりと分からせてやるのも教える者の責務ではないかの?」

「私は、才能がないとは思っていませんが……」

「武術を諦めさせぇ言うんか? そこに利剣の意思はないやんか!!」

「椎佳、落ち着きなさい……」

「静姉は何とも思わへんの!?」


 屍に今にも掴みかからんばかりの椎佳をなだめ、静流が落ち着いた態度で屍の言動をたしなめる。


「屍さん、才能がないとまだはっきり決まった訳では……」

「ふむ……。確か静流はかれこれ四ヶ月以上同じ屋根の下で指導をして来たのじゃったな?」

「ええ、ずっとではありませんが……」

「四ヶ月の進捗はどうなのじゃ?」

「……決して早いとは言えませんが、少しずつ上達はしています」

「実戦では生き残れそうなのかの?」

「……小鬼や死人しびとぐらいでしたら対処はできると思いますが、大蛇や鬼になってくると対処は不可能かと思います……」

「私と同じ考えじゃな」


 静流からの答えを聞き、うんうんと頷いた屍が椎佳を見た。


「このまま利剣に近接戦闘の訓練を続けさせるより、いっそ後方からの攻撃に鞍替えさせてみてはと思うてな。椎佳、利剣に弓を教えてやってはくれぬか?」

「は? ウチ?」

「うむ。危なっかしい状態で前線に立たせるよりも、静流と椎佳が前に立って後方から支援射撃をさせた方がより使えるし合理的じゃと思うての」

「使えるってアンタ……」

「その方が利剣にとっても良いと思ったのじゃ」

「それは……利剣も納得しとるん……?」

「うーむ、ひとまずは全員に話を聞いてみて方向性を決めてみろとは勧めておいたが」

「そうかいな……」


 屍と言葉を交わすたびに椎佳の機嫌がどんどん悪くなっていく様子に、咲紀は内心慌てつつも、どうしていいのか迷ってしまう。


「ほ、法術を教え込んでみるとかっ!?」

「咲紀の教えをもって使わせる事が出来るのか?」

「そ、それは分かんないけどっ……、静流さんや椎佳よりは教えられるかなーって……?」


 冗談めかして言った咲紀がチラリと二人の顔色を伺う。

 一理あるかもと頷く静流に、目を合わせずにムスッと床を睨んでいる椎佳。

 椎佳は何をそんなに怒っているんだろうか? と思っている咲紀に対して屍がポンと肩に手を置いた。


「そうか。なら一度法術の手ほどきを頼む。ダメならしっかりダメと言ってやってくれ」

「う、うんっ! やってみるっ……」

「椎佳は弓の手ほどき、頼めるかの?」

「……考えとくわ。ウチ、ちょっと頭痛いから部屋戻るわな」

「……大事にの」

「えっ? あ……う、うんっ……」


 スッ……パタンッ……!


 それだけ言って、椎佳は部屋をさっさと出ていってしまった。


「屍~……」

「な、何じゃ咲紀?」


 椎佳が退室してしばらくして、咲紀が倒れ込むように屍にもたれかかる。


「もーちょっとほんわかした雰囲気で話せないのぉ~? その口調も昔っからだよね……」

「むう、これは昔からじゃから変える理由が見つからぬのじゃが……」

「その口調で椎佳も気分を害したんだと思うよ……」

「む、そうなのか?」

「いえ、それは違います……」


 そんなやり取りをしていた二人に、突然静流が口を開いた。


「ち、違うのっ?」

「はい。実は椎佳は昔……私と同じ刀を極めようとしていたんです」

「ええっ!? 椎佳がっ?」

「はい。椎佳も刀が好きでしたから」


 驚く咲紀に、静流がコクリと頷く。


「しかし椎佳には刀の扱いがあまり上手ではなくって、ある日両親に槍を勧められまして……」

「なるほどのう」


 先程の椎佳の反応と静流から聞いた今の話で、屍の中で疑問が解消された。


「つまり椎佳は刀を使いたかったが無理に槍に変更された。そんな経緯があるから利剣の今の状態が昔の自分と重なって納得できないといった所か」

「そうですね」

「無理に槍っ……。利剣なら「これがホントの無理矢理!」とか言いそうだねっ……」


 突然咲紀が口走ったダジャレに、屍が冷ややかな視線を送る。


「咲紀……、利剣に毒されたか……?」

「ち、違うしっ!」

「咲紀さん、面白いですね」

「さっ、最初に言ったのは屍だしっ!」

「そこまで考えて言っておらぬわっ!!」

「言ったよ! 無理に槍にってっ!」

「いやそれは言ったが……ってもうその話は良いわっ!」


 駄洒落の罪の擦り合いを強制的に終わらせた屍が咳払いをして話を戻に戻す。


「オホン! ……自分が扱いたい武器と適性が違うというのは何とも気の毒な話じゃが、生憎と今回は命が掛かっておるでの……」

「それは椎佳も理解しているからこそ、何とも言えない心境なのだと思います」

「ううむ……。椎佳には悪いが、敵がいつ仕掛けてくるかも分からん状態じゃ。少しでも戦える状態には持って行きたい」

「ええ……そうですね」

「咲紀、ひとまず法術の指導を頼む。私は拳法と呪術を教えてみるかの……」

「えっ? 呪術とか……本気?」


 訝しげに尋ねる咲紀に、屍がさも当然という顔をする。


「物は試しじゃろ?」

「それは、そうなんだけどさ……」

「さて、私の話は以上じゃ」


 かくして、第一回利剣をどうするか会議は閉会したのだった。




 ・ ・ ・ ・ ・




「利剣さんっ、今日はお買い物に付き合ってくださってありがとうございますっ♪」

「いやいや。俺も何か役に立てて嬉しいからさ」


 スーパーの帰り道。

 六人分の食材が入ったビニール袋をぶら下げた利剣が流那りゅなの隣を歩く。


「最近ちょっと悩んでたからさ。いい気分転換になったよ」

「そうでしたか~……。でも、考えすぎはダメですからねっ?」

「ははっ、そうだなぁ」

「悩んだ時はぁ、美味しい物を食べて、ゆっくり寝るといいんですよ~!」

「じゃあ流那の腕によりをかけた料理、楽しみにしてるな」

「はいっ!」


 流那の純真無垢な微笑みを見た利剣は心洗われる気持ちで一杯だった。







あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました!

利剣抜きの女性陣会議。

自動的に三人称になってしまいましたが……

色々と触りたい欲で一杯です。

明日もお楽しみに…!






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