第七札 せとるめんと! =和解=

まえがき

いよいよ明らかになる社会のシステム・常識?

あれ?流那はこの世界の人間だよね?






 それから俺達はティーセット一式を持って再び応接間へと戻って来た。


 「家事が出来る」と言った二人の言葉に一切の嘘はなく、茶葉や道具のある場所を教えただけでササッと手際良く準備をしてくれた。


「で……さっきは何かいきなり日本刀とか出てきたんだけど…どこに仕舞ってたんだ?」


 コポポ…と空のティーカップに瀬堂せどうさんが紅茶を注いでくれるのを横目に俺は葉ノ上はのうえさんに尋ねる。


「あら……てっきり逢沢おうさわさんはお気づきとばかり…」


 少し意外そうに葉ノ上さんが返事を返す。


「あー……。俺の事は利剣りけんでいいよ。苗字はなんか慣れない」


 これもサキの影響だなぁ…なんて胸中で自分に対して苦笑する。


「あっ、それでしたらっ! 私の事も流那りゅなでいいですっ♪」


 全員に紅茶を淹れ終えた瀬堂さんがパンッと胸の前で両手を合わせる。


「ん、じゃあ流那…さんも自分の事を流那って言っていいからね?」


 俺も瀬堂さ……流那の真似をして胸の前で両手を合わせてやる。


「はぅ…。それは気をつけますからぁ……」


 着席した流那は顔を赤くしながら小さく肩をすぼませた。


「あ、葉ノ上さん。話がそれてごめん」


 向き直った俺に、葉ノ上さんが視線を自分の両手に落とし、組んだ指をもそもそと動かす。


「ん? どうかした?」


「何だか……この雰囲気の中で私だけ苗字のまま、というのもなんだか…」


「あ、いやいや! 仲間外れとかそういう意図はない! 全くないから!」

「そ、そうですよ~っ!」


 葉ノ上さんの呟きに対して二人が片手をパタパタと振りながらフォローを入れる。


「では…私の事も下の名前で呼んで下さって結構です」


 目を閉じてやれやれと言った表情で静流が小さく鼻でため息をつく。


 本心からやれやれと言った感じは全く感じず、どちらかというと「恥ずかしいけどしょうがないわね」みたいな感じだ。


静流しずるさんがデレた…」

「何か言われました?」


「いえ、何も」


 その辺に関してはあまり深くツッコむのはやめておこう。


「話を戻して日本刀の事だけど、静流の腰がぼやーっとしてるのは気づいてたんだけどそれが何でなのかは分からなかった」


「そう…なのですか?」


 俺の話に納得がいかないらしく静流の返事の歯切れが悪い。


「そうだけど、それがどうかした?」


「えっと……利剣さんと流那さんは法術師という事で間違いはありませんか?」


「え?」

「ふぇぇっ!?」


 静流の確認に二人が疑問の声を上げる。


「違うのですか?」


「うん」

「は、はいぃっ…」


「うーん……」


 首をかしげて悩む静流。


「静流さん、申し訳ないが君の考えている事と納得がいかない理由を説明してもらえないか?」


 俺の言葉に、流那も無言でこくこくと頷いている。


「あ……失礼しました。えっとですね……」


 静流の話によるとこうだ。


 サキという霊体がみんな見えているという事は二人には法力もしくは霊力が備わっているはず。

 その理論からすると俺と流那は法力関係の仕事に携わっているのではないか、と。

 そして日本刀が急に出てきた理由は、法術師が作った札の力によるものだった。


 歪曲札わいきょくふだ


 何でも札を貼った物体の存在を消す、とまではいかないが視認されにくくするらしい。

 ただしそれは一般人が武器を見て混乱しないようにと取られる一般人対処法であって法力がある人間には比較的簡単に見破られてしまうような術との事だ。


「なので、私の紫苑しおんがぼやけて見えるという事は法術師なのだと思っていました」


紫苑しおん?」


「私の愛刀のめいです」


「なるほどな」


「流那は紫苑さんはさっきまで全然見えなかったです……」


「そう、ですか……」


 流那の言葉に、静流がますます頭をひねった。


「ん?という事は、静流さんは法術師という事か」


 歪曲札に帯刀。


 俺の導きだした答えに静流が少し悩んでから小さく頷く。


「隠していて申し訳ありませんでした。私は青龍管轄の与力方です」


「セイリュウカンカツのヨリキガタ?」


 聞きなれない単語の連続で俺の頭は追突事故を起こしかけている。


「はい。悪霊や妖怪が出た場合、法術師と連携をして鎮圧・捕縛・駆除する役割です。」


「妖怪?いるの?すっげぇ!!」


 悪霊を倒す警察?自警団みたいなもんか?カッコいいな。


「利剣さんは…本当に法術師ではないのですね……。」


「そうだよ」


 流那も法術師ではないらしく、さっきから基本的に黙ってニコニコと話を聞くだけになっている。


 どうやら法術師は法術師でも大きく分けて二つ。


 俺が感動していた火や氷、雷などを飛ばして攻撃する法術師(法師方)と自身の身体や武具に法術の力を付与して近接戦闘を行う与力方の二通りがあるそうだ。


「ただ、利剣さんには法力があると思いますので、所定の管轄に法術師届を出した方が宜しいかと」


「管轄、ってさっき言ってた青龍管轄って事かな?」


「はい。管轄は大きく分けて5つですがここは東京なので青龍管轄になります」


「へぇ……」

「そうなんですね~…」


「5管轄は法術師だけではなく日本国民なら誰でも知る事が出来る情報なので皆様ご存じかと思っていました…」


「ふ、不勉強ですみませぇんっ…」

「いやぁ……申し訳ない」


 まぁ、流那は知らんが俺に関しては並行世界から来た転移者だしなぁ…。知らないのも無理はない。


 ちなみに余談ではあるが後で調べてみた所、北海道・東北地方は玄武、関東地方は青龍、京都・中部地方は麒麟、四国・中国地方は白虎、九州・沖縄地方は朱雀がそれぞれの管轄となっていた。


「法力がある人は管轄にて届出を出す。意図的に怠った場合は拘束や逮捕の可能性もありますので」


「歪曲札がぼやけて見えただけで、術とか使えなくても?」


「一応は報告した方がいいと思います…」


「分かった。その件については報告に行くようにする」


「はい」


「あ、あのぉ…」


 そろ~…っと静かに片手を上げる流那。


「流那も…行くべきなんでしょうか……?」


「流那さんは…うーん…。サキさんは見えても紫苑が見えなかったので…私には何とも判断が…」


「は、はいぃ…」


「まぁ、流那も俺と記念に行ってみよう」


 俺はニカッと歯を見せて親指を立てて笑う。


「分かりましたっ…。利剣さんも一緒でしたら……行きますっ…」


 初めて注射に行く子供かよ。


「最後に……静流さん。サキを祓うのだけはもう少し様子を見てくれないか?」


「………」


 俺の言葉を聞き、押し黙る静流。


「まだサキと静流さんは一回も対話をしていない訳だし、話せばきっと――」


「その件について、ですが」


 俺の言葉を遮って静流が口を開いた。


「流那さんに法力が無い場合、サキさんが見えるはずがないんです」


「今までの話をまとめると、そういう事になるよな」


「はい。なのでサキさんは霊体や悪霊ではないという可能性もあるので…しばらく調査と様子を見たいと思います」


「じゃあ……」


「相談や断りもなく祓うような真似はしないと約束致します」


「そ、そっか…!!良かった…」

「静流さぁんっ…」


「私だって見境なく霊を斬って回る鬼ではありませんので…」


 いや、ファーストコンタクトがあれだったからな。


 正直見たら即斬ってるようにしか見えなかった。


「…という訳でこれからもよろしくお願い致しますね、サキさん」


 と、静流が天井の片隅を見て微笑んだ。


「よ……ヨロシクオネガイシマース…」


 天井からひょこっと頭だけ出したサキは、見るからに怯えていた。



あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

騙し討ちでサキが駆除されたら笑うしかない。

「笑わないでよっ!!」

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