第六札 あんだーすたんでぃんぐ!! =理解=
俺がこの家で生活を始めて数日経ってからサキが突然現れた事。
名前がサキという事しか覚えていない事と
二人がその説明を聞いて全く疑う事をしなかったのはこの世界に
それとも壁をすり抜けるサキを見て、信じざるを得ない状態だったからだろうか。
「えっと…じゃあ、サキ…さんはいい幽霊さん…なんですかっ…?」
「あぁ。いい幽霊かは分からないけど…。少なくとも俺が怪我もなく死なずに生きているのが実害がないって証拠だと思う」
毎日気づかれない程度に少しずつ生気を吸われていたら分からんがな。
「そうですか……」
俺の言葉を聞いてから瀬堂さんはチラリと葉ノ上さんを見た。
「私は……霊である以上善悪は別として祓うべきだと思います」
キッと葉ノ上さんが真っ直ぐに、厳しい目で俺を見る。
圧がすげえ。
「それは、葉ノ上さんが祓うという意味なのか?」
「恐らくあの子があの状態であれば私でも
俺の実害がないという話を聞いてなおも祓うべきという意見は変わらず、か。
「率直に言うと、俺は祓うのは待ってほしいと思っている」
「しかし悪霊化して誰かに被害が出てからでは遅いかと。ここに勤めさせて頂く以上不安や心配の種は早めに摘み取ってしまう方が
くそ。ああ言えばこう言う。
暴君みたいで嫌だからこれはあんまり言いたくなかったが…。
「……葉ノ上さんがこの館で働く事を雇用主である俺が取り消したら?」
「……。それならば寺社に相談して他の手段で……」
「俺の敷地内に許可なく侵入した場合は不法侵入として然るべき対応を取るよ?」
「…くっ……」
ピリッと空気が張り詰める。
無言で
「あ、あのお二人とも落ち着きましょうっ…?」
精一杯場を和ませようと笑顔を浮かべる瀬堂さんだったが、空気が空気だけに苦笑いになっている。
うーん、瀬堂さんの頑張りを無駄にするのは忍びない。
葉ノ上さんも一瞬瀬堂さんをチラリと気遣うように見るが再び俺を見る。
瀬堂さん効果だろうか?
こころなしか、先ほどより表情の険しさが少しマシになっているように見えた。
強硬策を言いだした手前、自身から引くに引けないって事か。
俺はふぅ、と一つため息をついて気分を落ち着かせる。
出来るだけ表情を和らげ、だが侮られない程度に引き締める。
「熱くなってすまなかった。葉ノ上さんとはもう少し友好的に話をしたい」
軟化した俺の態度が意外だったのか一瞬きょとんとした顔になり、すぐまた無表情に戻った葉ノ上さんが一度俯いた。
そして顔を上げてから、
「……私の方こそ
と頭を下げたので俺は慌てて首を振る。
「さっきの雇用取り消し云々こそ浅慮だった。申し訳ない」
と同じく頭を下げた。
こういう時に謝るべき事は謝っておく。
変な意地やプライドで謝罪をしないと、関係性も含めて後々面倒な事になる。
「頭を上げて下さい。大丈夫ですから…」
「そっか。有難う」
「良かったです……」
二人のやり取りを見て、ホッと胸をなでおろす瀬堂さん。
何こいつ可愛い。
「そうだ。二人とも、お茶を淹れてくるから少し待っててもらえないか?」
言って席を立つ俺に、二人も席を立つ。
「ん?座っててもらっていいから…」
「あ、いえっ…そのっ…。お茶の場所はどこかなぁ、と…」
「え?」
「お茶の保管場所を教えてもらわないと次からお茶のご用意が出来ませんから」
「あ……」
二人が席を立った意図を理解した俺は何だか可笑しくなってしまう。
「あぁ、案内するよ。次からは淹れてもらうつもりだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます